教育・結婚・住宅資金の一括贈与

相続税・贈与税

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孫や子に対する生前贈与のうち、教育資金、結婚子育て資金、住宅取得資金の一括贈与は、条件を満たせば非課税となる制度があります。

生前贈与に関する制度は、相続時精算課税が知られていますが、これは課税のタイミングを相続発生時に繰延べる制度なので、税金そのものを非課税にする制度ではありません。

非課税の制度は、あまり知られていないようですが、要件をクリアして上手く活用すれば、生前贈与のプランニングにおいて、上手に節税が図れる可能性があります。

今回は、贈与税の非課税制度の内容について、詳しく見ていきます。

 

非課税の生前贈与

通常の生活費・教育費

親や祖父母などの扶養義務者から、子や孫の為に支出された生活費や教育費は、「通常必要と認められるもの」として、非課税です。

贈与税の対象とならない生活費とは、日常生活を営む上で必要な費用で、食費、養育費、治療費などが該当します。

また贈与税の対象とならない教育費とは、子や孫を教育する上で、通常必要と認められる学費、教材・文具費、通学費、修学旅行の費用などが該当します。

随時贈与との違い

通常の生活費・教育費は、発生するタイミングで随時に贈与するだけなら、非課税です。

但し、今後かかるであろう数年分の費用を一括で贈与する場合、すぐに使う訳ではない部分は、贈与税の対象とされてしまいます。

教育や結婚・子育ての非課税枠制度は、親や祖父母が何らかの理由で判断能力を喪失した場合に備え、目的がはっきりした資金を、非課税で贈与できるという点で、随時贈与との違いがあります。

連年贈与と定期贈与

随時贈与と似たような概念として、連年贈与と定期贈与があります。

毎年贈与を行う事を連年贈与、毎年一定金額の贈与を行う事を定期贈与と言いますが、定期贈与と認定されてしまうと、贈与税の対象になります。

例えば毎年100万円を10年にわたって贈与する事を取り決めていた場合、1年あたりの贈与額は、暦年贈与の非課税枠110万円を下回りますが、これは1000万円の定期贈与と認定されます。

たまたま毎年100万円を贈与していた場合の連年贈与と、線引きが難しい所ではありますが、贈与の認定は微妙なものが多いので、注意が必要です。

孫への生前贈与

暦年贈与の生前贈与加算は、従来は3年でしたが、2024年1月の改正で7年(経過措置あり)に変更されました。

ただ、この生前贈与加算、いわゆる「持ち戻し」の対象となる受贈者は、相続や遺贈で財産を取得しなかった者への適用はありません。

つまり、通常は、法定相続人ではない孫への生前贈与には適用されません。

但し、以下のケースでは、孫も生前贈与加算の対象になるので、注意が必要です。

  • 祖父母と養子縁組している
  • 代襲相続により、法定相続人である
  • 遺言書による遺贈で、財産を取得している
  • 死亡保険金の受取人になっている

贈与税の非課税制度

暦年贈与や相続時精算課税制度の非課税枠110万円とは別に、贈与税の非課税制度として、以下の3つがあります。

贈与の対象 制度内容 受贈者の要件
非課税上限 期限 年齢 所得制限
教育 1500万円 ~2026年
3月31日
30歳未満 1000万円
結婚・子育て 1000万円 ~2025年
3月31日
18歳以上
50歳未満
1000万円
住宅取得等 500万円or
1000万円
~2026年
12月31日
18歳以上 1000万円or
2000万円

 

教育資金

制度の概要

親や祖父母から、30歳未満の子や孫へ、教育資金を非課税で贈与できる制度で、非課税限度額は、受贈者1人につき1500万円(学校以外への支払は500万円)迄です。

この制度を利用するには、まず金融機関の窓口で専用口座を開設します。親や祖父母は金融機関と資金の管理契約を結び、子や孫名義の口座へ贈与資金を一括で入金します。

子や孫は、教育資金の領収書や請求書を金融機関に提出する事で、口座からお金を引き出す事ができます。(目的外の出金には贈与税がかかります)

子や孫が未成年の場合は、親などの保護者が手続を行います。

制度の終了

受贈者である子や孫が30歳になった時は、当該管理口座の契約は終了し、口座の残金は贈与税の対象になりますが、在学・受講中の場合は、在学・受講中でなくなった年の年末か、40歳になった時点の残高に対して贈与税が課されます。

この場合、税制改正により、適用される税率が特例税率ではなく、より高い一般税率で計算されるので、注意が必要です。

また、契約期間中に贈与者である親や祖父母が亡くなった場合、その時点の残高は相続財産の対象になります。

受贈者が23歳未満や、在学中などの場合は相続財産の対象から外れますが、税制改正により、相続税の課税価格が5億円を超える場合には、その時点の残高に相続税が掛かります。

なお、子や孫が法定相続人でない場合は、遺贈の場合と同様に、相続税額の2割加算が適用されますので、注意が必要です。

教育資金の範囲

この制度の対象となる教育資金は、以下の様に定められています。

  1. 学校等へ支払う入学金、授業料、保育料、施設費、試験検定料等
  2. 学校等の教育に伴い必要となる学用品、給食、修学旅行費等
  3. 学習塾等の教育に関する役務の提供、施設の利用料等
  4. スポーツ、文化芸術に関する活動、その他教養に係る指導への対価等
  5. 3の教育や4の指導で使用する物品の購入に必要な金銭
  6. 2に充てる金銭で、学校等が認めたもの
  7. 通学定期券代、留学渡航費等の交通費

全体の非課税限度額は1500万円で、学校等に直接支払うもの(上記1・2)以外は、計500万円までになっています。

また、2019年7月1日以降に支払う3~5の金銭は、受贈者が23歳に達した日の翌日以降に支払われるものは、教育訓練給付金の支給対象に限ります。

出所:国税庁パンフレット

 

結婚・子育て資金

制度の概要

親や祖父母から、18歳以上50歳未満の子や孫へ、将来の結婚や子育てに使う資金を非課税で贈与できる制度で、非課税限度額は、受贈者1人につき1000万円(結婚に関する支払は300万円)迄です。

この制度を利用する手続きは、前項の教育資金と同様です。

制度の終了

受贈者である子や孫が50歳になった時は、当該管理口座の契約は終了し、口座の残金は贈与税の対象になります。

この場合、一般税率の対象となる点は、前項と同様です。

また、契約期間中に贈与者である親や祖父母が亡くなった場合、その時点の残高は相続財産の対象になります。

なお、相続税額の2割加算の対象となる点は、前項と同様です。

結婚・子育て資金の範囲

この制度の対象となる結婚・子育て資金は、以下の様に定められています。

  1. 結婚・披露宴に係る費用(婚姻日の1年前以降に限る)
  2. 新居費用(家賃・敷金)、転居費用(一定の期間内に限る)
  3. 不妊治療・妊婦健診の費用
  4. 分娩費等・産後ケアの費用
  5. 子の医療費、幼稚園・保育園・ベビーシッター等の保育料

全体の非課税限度額は1000万円で、1・2は計300万円迄です。

出所:国税庁パンフレット

 

住宅取得資金等

制度の概要

親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ、住宅を購入する為の資金を非課税で贈与できる制度で、非課税限度額は、受贈者1人につき、省エネ住宅等は1000万円、それ以外の住宅では500万円迄です。

適用されるタイミングは、贈与を受けた年の翌年3月15日迄に住宅を新築、若しくは取得している事が必要です。

取得の場合は完成引き渡しになりますが、戸建住宅の新築の場合、完成引き渡し前であっても、屋根があり、土地に定着した建造物として認められている状態であれば問題ないとされています。

マンションの新築は、原則通り完成引き渡しが取得のタイミングになりますが、売買契約日と引き渡し日迄の期間が長期に及ぶ場合、贈与を早まったタイミングで行うと、この非課税の適用を受けられなくなるので、注意が必要です。

合計所得の制限

受贈者の所得制限は、合計所得2000万円(家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1000万円)以下とされています。

普通の給与所得者であれば、この制限に収まると思いますが、古い家を売って新居を買う場合、古い家の売却利益が多額であれば、この制限に引っかかる可能性があります。

また、自宅の譲渡で使える3000万円の特別控除枠も、合計所得の判定は、特別控除適用前で行われるので、注意が必要です。

住宅ローン控除時の注意点

住宅ローン控除を受けている場合、下記1が2の金額を超える時は、その超える部分の金額に住宅ローン控除の適用はありませんので、注意が必要です。

  1. 住宅ローンの合計残高
  2. 家屋の対価(一定の土地含む)から、非課税枠の適用分を差し引いた額

つまり、住宅ローン控除を受ける上限は、贈与を受けない部分に限るという趣旨になります。

出所:国税庁パンフレット

 

最後に

一連の贈与税の制度は、祖父母の世代からお金が必要な現役世代にスムーズに資産を移動し、もって経済を活性化させるという政策的な色合いが濃い制度です。

でも、今回取り上げた3つの非課税枠の制度は、適用要件が複雑で、かつ運用も長期にわたるため、この点をクリアするのは相当な根気が要るのではないかと思います。

特に、近年の税制改正は、この制度の利用実績がさほどではないため、要件を厳しくしているようですが、そうすると、政策側が制度を利用して欲しいのか、欲しくないのか、よく分からないですね。

ただ、ご家族の状況によっては適切な節税が図れる制度には間違いなので、内容を知っておいて損はないと思います。