居住用財産における譲渡所得の特例
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前回、10種類の所得を扱った際、土地・建物については申告分離課税の譲渡所得となり、他の所得との損益通算はできない事について解説しました。
ただ、居住用財産、いわゆるマイホームについてはこの限りではなく、様々な特例が設けられています。
基本的に、所得税の優遇措置は生活者や零細事業者へ手厚く、また所得の生じる状況においても様々な配慮がある税制です。
今回は、居住用財産にポイントを絞って、特例の具体的内容を見ていきます。
特例の前提条件
居住用財産の定義
マイホームの事を、税法では「居住用財産」と呼びます。
税務上の居住用財産の譲渡については、以下の定義を満たす必要があります。
- 現に居住している家屋や敷地の譲渡
- 転居してから3年後の12/31迄に、居住していた家屋や敷地を譲渡(この間、貸付等しても適用可)
- 災害等で家屋が滅失した場合は、災害のあった日から3年を経過する日の属する年の12/31迄に、その敷地を譲渡
- 転居後に家屋を取壊した場合は、転居から3年後の12/31か、取壊し後1年以内か、いずれか早い方の日迄に譲渡(取壊し後に貸付等した場合は適用外)
今住んでいる家であれば問題ないですが、引っ越したら、3年後の年末迄に譲渡しないと、税制上の特例は受けられません。
また、趣味・娯楽・保養を目的とした別荘等の財産については、特例の適用はありません。
譲渡の相手方
居住用財産の特例は、以下の方に対する譲渡には適用されません。
- 配偶者、直系血族(親・子・孫等)、生計を一にする親族、譲渡後にその家屋に居住する親族
- 本人、配偶者、直系血族、生計を一にする親族が主催している同族会社
申告要否
特例を適用して譲渡所得がゼロになるケースでも、申告しないと特例の適用は受けられません。
また、譲渡所得がマイナスで、申告不要のケースであっても、申告しないと損失の繰越控除等の特例を受ける事はできません。
居住用不動産の特例
居住用不動産を売却する際、利用できる特例は以下のとおりです。
名称 | タイプ | 優遇措置 | タイミング | 併用可否 |
3000万円の特別控除 | 節税 | 所得控除 | 売却時 | 可 |
10年超の軽減税率 | 軽減税率 | |||
買換え特例 | 課税の繰延べ | 買換え | 不可 | |
買換え損失の繰越 | 税金 還付 |
損益通算 繰越控除 |
不可 | |
オーバーローン特例 | 売却時 | 不可 |
上記5つの特例が適用できるのは、3年に1度だけです。
また、上記3つの節税タイプの特例と、住宅ローン減税における税額控除は、居住前2年~居住後3年の計6年間、同時適用はできませんので、どちらか有利な方を選択する必要があります。
3000万円の特別控除
自宅が高値で売れた場合、利益に相当する分の譲渡所得が生じる事になります。
ただ、自宅は事業用資産ではないし、一般的に利益獲得を目的とした財産ではありません。
そこで、居住用財産の譲渡益に対し、所有期間の長短に関係なく、3000万円の特別控除枠が設けられており、特例の中では、最も一般的に利用されています。
例えば、以下の様な状況で考えてみましょう。
- 取得価格 4000万円
- 取得費用 150万円 譲渡費用 200万円
- 売却価格 6000万円
このケースだと、本来、譲渡所得と税金は、以下のように計算されます。
- 譲渡所得 6000-(4000+150+200)=1650万円
- 税金 1650×20.315%=335万円(所有5年超10年以内の場合)
3000万円の特別控除枠を適用すると、譲渡所得はゼロになるので、計算される税金もゼロになります。
詳細は、国税庁HPをご参照下さい。
10年超の軽減税率
売却した年の1/1時点で、その居住用財産の所有期間が10年を超えている場合は、税率の優遇措置があります。
通常の短期・長期譲渡と並べてみると、以下のようになります。
譲渡所得 | ~5年 | 5年超~10年 | 10年超 |
~6000万円 | 39.63% | 20.315% | 14.21% |
6000万円超 | 20.315% |
この軽減税率は、所有期間10年超であれば、3000万円特別控除との併用が可能なので、控除後の譲渡所得がある場合には、この部分についても優遇措置を受けられます。
詳細は、国税庁HPをご参照下さい。
買換え特例
この特例は、居住用財産の住み替えを前提としており、新しく購入した家の価格が売却額を上回る場合、元の家の譲渡益に係る課税を将来に繰り延べる事ができる特例です。
従って、譲渡益が非課税になる訳ではなく、新しく購入した家を売る際には、繰り延べた譲渡益に対する課税が発生します。
なお、新しく購入した家の価格が売却額を下回る場合は、売却額と購入額の差額は収入として譲渡所得の対象になりますが、その差額を除く譲渡益は繰延べの対象となります。
この特例の適用要件について、主なものは以下のとおりです。
- 元の家は所有期間10年超である事
- 元の家と新しい家は、日本国内に存在する
- 売却代金1億円以下
- 新しい家は築25年以内、建物50㎡以上、土地500㎡以下
なお、この特例は令和5年12月31日迄に売却する場合に適用されます。
詳細は、国税庁HPをご参照下さい。
買換え損失の繰越
この特例は、住み替えを前提としている点は、前項の買換え特例と同様ですが、買換え特例が譲渡益を対象としているのに対し、譲渡損失が対象となる点が異なります。
通常、土地・建物の譲渡損失は、同じ土地・建物同士の譲渡益との相殺はできますが、他の所得との損益通算はできず、譲渡損失が残っても繰越す事はできません。
居住用財産については、一定の要件を満たせば、損益通算に加え、相殺しきれなかった損失の繰延べ(翌年以降3年間)が可能になっています。
この特例の適用を受ければ、給与所得で源泉徴収された税金が還付されるかもしれません。
この特例の適用要件について、主なものは以下の通りです。
- 元の家は所有期間5年超である事
- 元の家と新しい家は、日本国内に存在する
- 新しい家は建物50㎡以上
- 元の家の土地は500㎡以下(超える部分の適用なし)
- 新しい家の取得に際し、期間10年以上の住宅ローンを有する事
- 合計所得3000万円以下
詳細は、国税庁HPをご参照下さい。
オーバーローン特例
この特例は、住宅ローンの残高が、売却価額よりも大きい場合に利用でき、買換えを前提としていない点が特徴です。
オーバーローンとは、住宅ローンの残高が売却額を上回っている状態で、売却による収入だけではローンを完済できない状況を指します。
住宅ローンは、返済が進めば残高が減るものであり、通常は取得価格よりもローン残高の方が少なくなるので、取得価格を基準とした方が優遇幅は増えるはずですが、その代わり、買換えを前提とせず、利用しやすくなっています。
売却収入でローンを完済できない場合、新しい家を購入する余裕がない事もあるので、こうした状況に配慮した制度と言えそうです。
この特例の適用要件について、主なものは以下の通りです。
- 譲渡する家は所有期間5年超である事
- 譲渡する家は日本国内に存在する
- 譲渡の際、期間10年以上の住宅ローンを有する事
- 譲渡価額が上記の住宅ローン残高を下回る事
- 合計所得3000万円以下
詳細は、国税庁HPをご参照下さい。
その他の特例
上記5つの居住用不動産の特例以外にも、土地や建物に関する特例があるので、以下のリンクから国税HPをご参照下さい。
最後に
居住用財産の特例は、大きく分けて利益が出た場合と、損失が出た場合があり、それぞれの状況に応じた制度だという点がわかりました。
事業用の土地・建物にはこうした特例はありませんし、別荘だと不動産どうしの損益通算すらできません。
冒頭に書いた様に、税金の優遇は生活者に手厚いのが基本なので、この点からも納得のいく制度かと思います。
ただ、住宅ローン減税との併用不可の期間があるなど、適用にあたっては注意すべき点もあるので、住み替えを予定している場合は、事前に検討が必要です。