電子帳簿保存法と電子データの保存義務化

2023年11月14日制度改正

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インボイス導入に伴う混乱も冷めやらない中、今年末で電子帳簿保存法の猶予期間が終わり、2024年1月より、電子取引の電子データ保存義務化がスタートします。

この電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿や書類を、電子的に保存する際の要件について定めた法律で、1998年に制定されて以降、何度も改正されて現在に至っています。

それまでの電子帳簿保存法と言えば、電子的に保存するには税務署への届出が必要になるなど、DXに逆行するような内容で、正直あまり真剣に検討してこなかったと思います。

既にクラウドなどを活用してデータの分類・整理を行っている人から見れば、やっと世の中の動きに制度が追い付いてきたという感じでしょうか。

ただ、内容を正しく理解していないと、思わぬ落とし穴もありますので、今回は電子帳簿保存法の対象と改正ポイントについて、内容を見ていきます。

 

電子保存の種類

電子帳簿保存法が定める電子保存の形式は、次の3種類です。

電子取引データ

国税庁のパンフレット

電子取引データの保存義務は、2024年1月からスタートしますので、法人、個人を問わず、事業者は必ず対応する必要があります。

この電子取引データは、ウェブ上でやり取りした注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、請求書等の取引関連書類が該当します。

受け取った場合だけでなく、送った場合にも保存する必要があります。

保存するには、改ざんを防止するための措置を取る必要があります。

以前は、タイムスタンプなど、導入にコストがかかる方法でしたが、この要件が緩和され、今では「改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る」といった方法でもいい事になりました。

また、日付・金額・取引で検索できる事や、ディスプレイやプリンタを備え付ける事も、電子取引データを保存するための要件です。

検索要件については、専用のシステムを導入しなくても、エクセルで「日付・金額・取引先」をリスト化しておく方法や、ファイル名に「日付・金額・取引先」の名称を付す方法、いずれかで対応可能です。

なお、検索条件を満たさない場合でも、プリントアウトした書面を日付・取引先毎に整理された状態で提出できる場合は、税務職員からの求めに応じて、データをダウンロードできる状態にしておけばいいとされています。

さらに、基準期間(2年前)の年間売上高5000万円以下の事業者の場合は、書面を整理された状態で提出できなくても、税務署員からの求めに応じて、データをダウンロードできる状態にしておけばいいとされています。

なお、保存するファイル形式は特に定められておらず、PDFやスクリーンショットでも問題ありません。

スキャナ保存

国税庁のパンフレット

スキャナ保存は任意とされているので、慌てて書類のスキャンを始める必要はありません。

また、スキャナ保存を開始する以前の重要書類をスキャナ保存する場合は、税務署に事前の届出が必要になるので、注意が必要です。

スキャナ保存は、紙の書類をスマホや、複合機のスキャナ機能で読み取って保存することを指します。

スマホでも大丈夫なのか気になりますが、ルールでは、スキャナの解像度200dpi以上、原則カラー(一般書類の場合は白黒可)となっていますので、歪みなく撮影できていれば、大丈夫だと思います。

以前はタイムスタンプが要件になっていましたが、改正によって、訂正や削除の履歴が残るクラウドサービス等を利用すれば、タイムスタンプを省略できるようになりました。

入力期間の制限は、作成・受領から原則7営業日以内とされていますが、事務の書類規程を定めている場合は、その期間(最長2ヶ月以内)で処理する事とされています。

紙の書類は、取引相手から受け取った書類に加え、自社が手書きで作成して取引先に渡した書類も含まれます。

契約書など押印が必要な書類は、今でも紙でしか対応しないケースが多いですよね。また取引相手がメール対応していないと、見積書、請求書なども郵送対応なんて事もあります。

なので、任意ではありますが、このスキャナ保存の要件に上手く対応することで、省スペース、事務の効率化につながると思います。

なお、日付・金額・取引先で検索できるようにしておく事は、電子取引データの保存要件と同様です。

電子帳簿・電子書類

国税庁のパンフレット

電子的に作成した帳簿や書類を、電子データのままで保存することを指します。

つまり、会計ソフトやパソコンで作成したデータの事です。

会計ソフトは、仕訳帳や総勘定元帳、貸借対照表、損益計算書などの決算書類を作成する機能が付いていることが普通だと思うので、市販されているソフトを導入している場合は、既に要件を満たしています。

パソコンで作成したデータには、見積書、請求書、納品書、領収書等を、取引相手に紙で渡した際の控えが含まれます。

会計ソフトで作成した帳簿をデータで保存するには、システムの説明書やディスプレイ等を備え付け、税務職員からの求めに応じて、データをダウンロードできる事が要件になっています。

さらに、一定の帳簿を訂正削除の履歴が残るなどの「優良な電子帳簿」の要件を満たし、税務署に事前に届出書を提出すれば、過少申告加算税の5%軽減措置が受けられます。

ちなみに、この電子帳簿等保存は、任意です。

帳簿が手書きという会社は稀だとは思いますが、ソフトやパソコンを使用していない場合、上記は該当しません。

 

押印済み契約書の対応

対応が義務化された電子取引データには、契約書も含まれます。

でも契約書は、データの状態ではなく、双方の押印があるものが正式版ですよね。

受領した紙の書類については、スキャナ保存で対応しますが、これは任意です。

そうすると、契約書の対応は、電子取引データなのか、スキャナ保存なのか、どっちなのでしょう?

電子署名で対応する場合

最近では、物理的な印鑑ではなく、電子署名で対応する会社も増えてきました。

郵送での往復に係る事務が省ける事に加え、印紙が不要とされている点が大きいと思います。

この電子署名で対応した契約書の場合、データの状態が正本になるので、電子取引データになります。

紙で保存する必要はそもそもありませんでしたが、今後はデータで保存する事が義務化されます。

印鑑で対応する場合

電子署名を採用していても、相手が対応していない事もあると思います。

その場合は印鑑で対応するのが一般的ですが、双方の押印がある契約書の扱いはどうなるでしょうか?

手書きの場合は、電子取引データではないので、スキャナ保存の一択です。

でも、今どき手書きはないと思いますし、事前にドラフトをメール等でやり取りしますよね。

契約内容が固まった押印前のファイナル版は、データの状態であると思いますので、これは電子取引データとなり、保存する場合は、データでの保存が義務化されます。

一方、押印済みの契約書ですが、これはスキャナ保存すれば、原本は不要になります。

但し、PDFは法律上は準文書として扱われますので、契約の相手方と裁判等で争う場合は、証拠能力が劣る可能性があります。

スキャナ保存で原本不要とされるのは、あくまでも電子帳簿保存法のルールであって、法律一般で通用するとまでは言えないと思います。

普通に考えれば、スキャナで保存するといっても、大切な契約書を廃棄したりしませんよね。

また、スキャナ保存はシステムの導入が必要ですが、対応は任意とされています。

そう考えると、結局は原本をファイリングするという、今まで通りの対応が温存されるのではないかと思います。

電子帳簿保存法の対応で言えば、スキャナ保存は任意とされているので、紙の原本があれば、電子取引データとの二重の保存は不要となるはずです。

但し、紛失に備えたバックアップとして、押印前のファイナル版を電子取引データとして保存しておくのはありだと思いますし、スキャナ保存の要件を満たすよりはハードルは低いと思います。

 

2022年の改正ポイント

2022年1月に施行された電子帳簿保存法における主な改正ポイントは、以下の5点です。

電子データ保存の義務化

今回、最も大きな影響を受けるポイントです。

2年間の猶予期間があったので、義務化は2024年1月からスタートします。

電子取引における電子データは、これまで紙で保存することも認められていましたが、改正後は、電子データで保存する事が義務化されます。

なお、スキャナ保存や電子帳簿等の保存は任意になっていますが、電子取引については、義務化以降、紙で保存することが許されず、必ず電子データで保存する必要があります。

事前承認制度の廃止

改正前は、スキャナ保存と電子帳簿等の保存をするためには、事前に税務署への届出を行う必要がありました。

これが廃止され、改正後は届出を行わなくて、好きなタイミングでスキャナ保存や電子帳簿等の保存を始められます。

前項でも触れましたが、スキャナ保存を始める以前の重要書類をスキャナ保存する場合は、これまで通り、税務署への届出が必要なので、注意が必要です。

なお、電子取引における電子データの保存は、元々行う事ができましたので、上記には該当しません。

検索要件等の緩和

電子取引を行う際には、電子的に保存したデータを一定の条件で検索できるようにしておく必要がありますが、その要件が緩和されました。

電子取引データとスキャナ保存については、要件が以下の3点になりました。

  1. 日付・金額・取引先で検索ができる
  2. 日付、又は金額の範囲指定で検索ができる
  3. 2項目以上の任意の項目を組み合わせて検索できる

但し、税務職員の求めでデータのダウンロードに応じる場合は、2と3は不要です。

さらに、基準期間(2年前)の年間売上高が1000万円以下(2024年1月からは5000万円以下)の事業者であれば、検索要件を満たす必要はありません。

会計ソフトなどの電子帳簿については、システム仕様書・ディスプレイ・プリンタを備え付けていて、税務職員からの求めに応じてデータをダウンロードできるようにしておけばいい事になりました。

会計ソフトと言えば、もともと検索機能などが充実しているので、当然だと思います。

タイムスタンプ要件緩和

スキャナ保存については、改ざんを防止するために、自署やタイムスタンプの要件が課されていました。

今回の改正でこの要件が緩和され、訂正や削除の履歴が残るクラウドサービス等を利用すれば、タイムスタンプを省略できるようになりました。

また自署については、改正によって不要になりました。

罰則規定の強化

電子取引の電子データ保存や、書類のスキャナ保存に際し、隠蔽や仮装があった場合の罰則が強化されました。

該当の行為によって生じた申告漏れ等の全額について、重加算税が10%課されます。

 

まとめ

最後に、電子保存の種類毎に対応を、簡単にまとめてみます。

  義務 内容 検索要件 保存要件
電子取引データ メール添付の文書等 日付・金額・取引先
要件緩和措置*あり
事務処理規程
スキャナ保存 任意 郵送・紙での受け渡し クラウド等
電子帳簿等 任意 会計ソフト・PC作成文書 ソフトの機能 優良なら軽減措置

* 基準期間(2年前)の年間売上5000万円以下の事業者が対象

 

いかがだったでしょうか?

想像通りの内容かもしれませんが、こうして全体を見渡してみると、曖昧な部分が見つかったりしますので、電子データ保存の義務化スタート前に、一度チェックしてみる事をお勧めします。