相続税・贈与税における土地の評価

相続税・贈与税

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土地の評価と聞くと、まず固定資産税評価額が思い浮かびます。

相続税の申告でも、固定資産税納付書に記載されている評価額が、そのまま使えれば楽なのですが、これは市町村が固定資産税を徴収する為の評価額です。

一方、相続税や贈与税における土地の評価は時価とされており、一定のルールのもと、独自に計算する必要があります。

評価額の基となる基本情報は、元を辿れば同じだったりもしますが、時価の計算方法は、様々な調整や減額要因を加味して行われます。

今回は、基準となる評価額の意味や、具体的な土地の評価方法について、ポイントとなる点を見ていきます。

 

用語の意味

公示価格

国交省が毎年3月に公示する価格で、適正な地価の形成に寄与するために設けられています。

公示される地価は、全国26,000地点の標準地について、鑑定評価員(不動産鑑定士)が、1月1日時点の1㎡あたりの正常な価格を判定します。

国土交通省:地価公示・都道府県地価調査の検索

相続税路線価

国税庁が毎年7月に公表する価格で、相続税や贈与税の基準となる価格です。

公表される価格は、道路に面している1㎡あたりの土地の評価額で、公示価格の80%が目安とされています。

国税庁:路線価図・評価倍率表

固定資産税路線価

固定資産税を管轄する市町村が、3年毎の基準年に合わせて、評価額の見直しを行うもので、固定資産税の基準となる価格です。

公表される価格は、道路に面している1㎡あたりの土地の評価額で、公示価格の70%が目安とされています。

資産評価システム研究センター:全国地価マップ

 

基本的な評価方法

相続税・贈与税の申告において、土地は宅地、田、畑、山林などの地目毎に評価します。

なお、家屋については、固定資産税評価額と同額とされていますので、土地の評価方法の方を、詳しく見ていきます。

路線価方式

路線価が定められている地域の評価方法です。市街地や住宅地など、ある程度インフラが整っている地域は、路線価が定められているケースが多いと思います。

この方式による土地の価格は、路線価を土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの画地調整率で補正した後に、土地の面積を乗じて計算します。

計算式は、以下の様になります。

  • 相続税評価額= 路線価 × 画地調整率 × 地積

倍率方式

路線価が定められいない地域の評価方法です。市街化調整区域や未線引き区域は、基本的に路線価が定められていないので、この倍率方式で評価します。

この方式における土地の価格は、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。

計算式は、以下の様になります。

  • 相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率

土地の状況に応じた加減算は、既に固定資産税評価額に反映されている為、路線価のような画地調整率による調整は行いません。

倍率は、評価倍率表で確認することができます。

 

画地調整率

路線価方式の場合は、以下のような画地調整率による調整を行います。

種類 増減 補正される場合
奥行価格補正率 減額 標準的な地形より奥行が長い・短い
奥行長大補正率 間口距離に比べて奥行距離が2倍以上長い
不整形地補正率 宅地の形状が歪であり、使い勝手が悪い
間口狭小補正率 用途に対して間口が狭い
がけ地補正率 宅地に1割以上のがけ地(法面)がある
側方路線影響加算率 加算 土地が角地、準角地(L字道路)に存在する
二方路線影響加算率 土地の表面・裏面の両方に道路がある

奥行価格補正率

この調整は、評価額が減額調整できる補正の1つですが、接面道路からの奥行距離が一定の長さある土地にしか適用する事ができません。

普通住宅地は、奥行が10~24mであれば補正率1.00とされているので、この奥行であれば、土地が正方形に近く、使い勝手がいいとされているようです。

逆に、奥行が10m未満だったり、24m以上の場合は長めの長方形になる場合が多く、土地の使い勝手の面で劣るので、その分の評価を減額しているものと思われます。

国税庁HP:奥行価格補正率表

奥行長大補正率

奥行価格補正率と似ていますが、この調整は全く別のもので、間口距離(接面部分の幅)に対して、奥行距離が2倍以上である場合に適用できるものです。

奥行価格補正率は、接面道路からの「距離」が基準であり、奥行の長短両方に適用があるの対し、奥行長大補正率は、間口距離と奥行距離の「比率」が基準であり、奥行が長い場合のみ適用がある点に、違いがあります。

国税庁HP:土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表

不整形地補正率

土地が歪な形をした不整形地の場合は、何を奥行距離とするのか、判断が難しい場合があります。

基本的なな考え方は、以下1、2のいずれか短い方を奥行距離とします。

  1. 想定整形地の奥行距離
    土地の接道面を基準として、仮の長方形の土地を想定し、接道道路からの奥行距離を、想定整形地の奥行距離とします。
  2. 地積÷間口距離による奥行距離
    その土地の地積(面積)を間口距離で割った数値を奥行距離とします。なお、ここでの間口距離は、①②のいずれか短い方とします。
    ①実際に道路に面している間口距離
    ②想定整形地の間口距離

不整形地の類型には、角地(隅切り地)、三角地、旗竿地(L字型)、台形・平行四辺形の土地、境界がギザギザの土地などがあります。

国税庁HP:不整形地の評価

 

減額要素

土地の評価額は、その土地の利用方法や契約関係などによっても、様々な減額が認められています。

この減額要素は、路線価方式、倍率方式の両方について適用が可能です。

貸宅地・貸家建付地

借地権が設定されている土地を貸宅地、アパートなどの賃貸物件の敷地を貸家建付地と呼びます。

相続税評価額は、以下の計算式になります。

  • 貸宅地:自用地の評価額 ×(1-借地権割合)
  • 貸家建付地:自用地の評価額 ×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

借地権割合が70%の地域だとすると、貸宅地の評価は30%まで下がります。

また借家権割合は全国一律30%なので、借地権割合70%、賃貸割合100%だとすると、貸家建付地の評価は79%となり、概ね2割の評価減となります。

借地権

土地を借りて、自分で建物を建てている場合の借地権についても、財産的価値があるものとして、相続財産を構成します。

相続税評価額は、以下の計算式になります。

  • 借地権:自用地の評価額 × 借地権割合

地積規模が大きな宅地

従前の制度では広大地と呼んでいましたが、適用要件が曖昧などの問題点があった為、2017年の税制改正によって廃止されました。

代わりに、2018年1月から開始する相続では、地積規模が大きな宅地の評価という規定が適用されています。

地積規模が大きいかどうかは、原則として以下のように決められています。

  • 面積要件:三大都市圏500㎡以上、それ以外の地域1,000㎡以上
  • 地区要件:普通住宅地、若しくは普通商業・併用住宅地域
  • 容積要件:400%未満(東京23区は300%未満)

相続税評価額は、以下の計算式になります。

  • 相続税評価額=通常の土地の評価×規模格差補正率

規模格差補正率の計算方法は、以下のサイトでご確認下さい。

国税庁HP:地積規模の大きな宅地の評価

その他の減額要素

上記以外にも、下記の土地は、評価を減額できる可能性があります。

【土地の属性】

  • 市街地の田、畑、山林
  • 都市計画道路や区画整理の予定がある

【道路関係】

  • 道路に接していない
  • 私道に面している
  • 前面道路幅が4mに満たない
  • 道路の間に水路を挟んでいる
  • 土地の中に里道や水路が通っている

【住環境】

  • 騒音、悪臭等、周囲の住環境が悪い
  • 線路や踏切に隣接している
  • 土壌が汚染されている
  • 高圧線の下にある
  • 墓地に隣接している

【利用状況】

  • 2棟以上の建物を建てている
  • 建物の建築が難しい

【地下の状況】

  • 地下鉄の上にある
  • 埋蔵文化財がある

 

最後に

相続税における土地の評価を行う際には、各種の補正や減額要素を検討する必要があります。

通常の宅地であれば、大きな調整になるケースはあまりないですが、周辺環境などの減額要素を加味できれば、相続税の節約に繋がるかも知れません。

特に、事業用の土地など、自宅以外の不動産を保有している場合、土地の形状や都市計画の存在などによっても、評価額が大きく変わる可能性があります。

制度のポイントを押さえて、相続税や贈与税の節約に繋がれば幸いです。