調整対象固定資産、高額特定資産とは?

2024年4月2日消費税・インボイス

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高額な資産の購入を行う場合、消費税の還付を受けられる可能性があるので、免税事業者であっても、課税事業者の選択を検討する事はあると思います。

売上が少ない会社であれば、課税事業者の期間に購入し、また免税事業者に戻って売却すれば、売却に係る消費税は免除され、購入に係る消費税のみ還付されると考えがちです。

ここに落とし穴があります。

一時期盛んに行われた消費税還付スキームは、税法の改正によってほとんど封じられていますが、その制限の内容を理解していないと、その後の消費税申告に大きな影響が出てしまいます。

今回は、課税方式の制限を受ける資産の購入について、具体的に見ていきます。

 

用語の意味

調整対象固定資産

対象となる資産は、土地等の非課税資産や棚卸資産を除く、建物・設備・車両・備品等の固定資産で、賃貸借権利金、預託金方式のゴルフ会員権、ソフトウェア購入費用、書画・骨董等を含みます。(国税庁HP

これらの一組・一式等の一取引単位に係る税抜価額が100万円以上のものを調整対象固定資産と言います。

対象となる一定の課税事業者が、当該資産を取得し、本則課税による消費税申告を行った場合、原則として当該課税期間を含む3年間は、免税事業者や簡易課税による申告を行う事ができません。

対象となる一定の課税事業者とは、以下の者を指します。

  • 課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になった者
  • 新設法人・特定新規設立法人の特例により、免税事業者になれない者

高額特定資産

対象となる資産は、調整対象固定資産に加え、棚卸資産が含まれ、一取引単位に係る税抜き価額が1000万円以上のものを高額特定資産と言います。

課税事業者が、当該資産を取得し、本則課税による消費税申告を行った場合、原則として当該課税期間を含む3年間は、免税事業者や簡易課税による申告を行う事ができません。

この規定の対象となる課税事業者は、課税事業者になった理由を問わないので、基準期間の課税売上高が1000万円を超える事によって課税事業者になった者も含まれます。

なお、簡易課税制度を選択している者が、基準期間の課税売上高が5000万円を超えていた為に本則課税の適用を受ける場合で、当該期間に高額特定資産を取得した場合は、この制度の制限を受ける事はありません。

免税事業者から課税事業者になった際、期首棚卸残高は仕入税額控除の対象になりますが、棚卸資産が高額特定資産に該当する場合は、この制度の制限を受けます。

以前は、この制度の対象に免税事業者が含まれていませんでしたが、2020年の改正により、免税事業者であった期間中に仕入れた棚卸資産についても、対象にする事となりました。

 

課税売上割合の変動

対象者

調整対象課税資産の購入を行う際、気を付けなければならなのが、課税売上割合の変動です。

課税売上割合の影響を受けるのは、本則課税の適用を受ける事業者で、売上高5億円超、もしくは課税売上割合95%未満の事業者です。

この事業者は、仕入税額控除の計算において、個別対応方式か一括比例方式を選択しますが、どちらを選択したとしても、課税売上割合の影響を受けます。

調整対象固定資産の購入を行った期間を1期目として、1~3期平均の課税売上割合が著しく変動した場合、1年目に行った仕入税額控除を調整するルールになっています。

著しい変動とは

著しい変動とは、以下の様な場合を指します。

仕入課税期間:1期目の課税売上割合
通算課税期間:1~3期平均の課税売上割合

  1. (仕入課税期間 - 通算課税期間) ÷ 仕入課税期間 ≧ 50%
  2.  仕入課税期間 - 通算課税期間 ≧ 5%

上記2つの要件を同時に満たす場合、1期目の調整対象固定資産に係る仕入控除額について、上記2の式で計算した比率を掛けた額を、3期目の仕入税額控除の額から差し引いて申告します。

逆に、通算課税期間の課税売上割合が著しく増加した場合は、3期目の仕入税額控除の額に足して申告します。

国税庁HP:課税売上割合が著しく変動したときの調整

土地譲渡や業績悪化に注意

一般の事業会社において、課税売上割合が著しく変動する要因は、土地や有価証券の譲渡によって、多額の非課税売上が立つ場合の他に、課税売上が大幅に減るような業績悪化が挙げられます。

業績が悪化すると、非課税資産を売って資金繰りを凌ぐケースが多いので、リストラが課税売上割合を著しく変動させるきっかけにもなります。

通常は、業績悪化を予測しておくことは難しいと思いますが、非課税資産の売却を早めたり、調整対象資産の購入を翌期に遅らすような対応は可能なので、設備投資の計画を練る際は、消費税への影響を検討しておくと良いでしょう。

 

居住用賃貸建物

還付スキームの動機

居住用賃貸建物は、アパートやマンションといった不動産投資の対象です。

投資家は建物を購入する際、多額の消費税を払いますが、一方で住宅の賃貸収入は非課税なので、税額控除の対象にはなりません。

建物の購入代金が億単位だとすると、負担する消費税は数千万単位になる事があるので、何もしなければ、この仕入税額が控除対象にならず、無駄になります。

でも、売上は非課税ですし、免税事業者のまま建物を売却できれば、売却時の消費税を納める必要はなく、全体の平仄は保たれているようにも思えます。

しかし、初期投資をなるべく抑えたい投資家は、ここで消費税の還付スキームを編み出します。

これまでの変遷

2006年頃のスキームは、まず課税事業者を選択した上で、対象となる建物の敷地に自販機1台を設置し、少額の課税売上を生む出すことで、消費税の還付を狙うシンプルなものでした。

この方法だと、非課税の賃貸収入が生れる前の建設途中で自販機を設置すれば、課税売上割合が95%以上となり、仕入税額の全額控除が可能になります。

課税売上割合が著しく変動した場合は、3年後に調整額を徴収されるルールはあったものの、3年目を迎える前に非課税事業者に戻って、調整をすり抜ける事が可能でした。

そこで2009年、調整対象固定資産の3年縛りルールができ、免税事業者に戻れなくする事で、調整をすり抜けるスキームは封じられます。

しかし2016年頃になると、「金」の購入と売却を繰り返す事で、課税売上割合を調整する方法が、はやり出します。

この方法だと、売買の往復で多少の手数料は発生しますが、金自体が高額であるため、著しい変動に抵触しないように上手く調整すれば、調整額の徴収を回避する事が可能でした。

かなりグレーな匂いがしますが、金地金の取引自体は合法である為、当時は盛んに行われたスキームでした。

2020年税制改正

度重なる税制改正によっても、当局とのいたちごっこが続いていましたが、遂にその争いが終わりを迎える時が来ました。

2020年の税制改正により、居住用賃貸建物が高額特定資産に該当する場合、仕入税額控除の対象外となりました。

しかし、当該資産を売却した場合や、一部を事業用に転用した場合等は、消費税の納税義務がありますので、このままだと制度全体との平仄が合いません。

そこで、居住用賃貸建物に関する仕入税額については、取得から3期目の課税期間において、一定金額を仕入税額控除に加算できる調整措置を設けています。

 

最後に

消費税の還付は、法改正を受ける度に抜け穴が塞がれ、代わりに複雑なルールが幾重にも設けられるようになっています。

そもそも、消費税の還付は、沢山納めるケースもある場合のトレードオフとして存在していれば、公平と言えます。

免税事業者や簡易課税制度が存在しているのは、零細事業者への配慮なので、ルール上の制限を受けるのは、やむを得ない面があります。

しかし、還付狙いの意図が無いにも関わらず、ルールの制限を受けて、不利な課税を受けるような事態は、避けるべきでしょう。

いくつもある消費税のルールですが、影響を受けそうな部分だけでも頭に入れて、上手に節税を図りたいものです。