事業承継税制 猶予される税額の試算

2023年11月24日事業承継

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事業承継税制は、最終的に猶予税額の免除が受けられるので、上手く活用できればメリットは大きいです。

一方で、猶予される税額が少額であれば、煩雑な事務に対応する手間や、専門家費用と見合わないかもしれません。

また、将来において、予期せぬ事で猶予が外れた時のダメージは甚大です。

そこで、今回は贈与税、相続税の計算の仕組みと、おおよその猶予税額を試算してみる事にします。

 

計算の仕組み

贈与税

贈与税とは、個人から財産を贈与された時にかかる税金で、受贈者(贈与された人)が納めます。

暦年(1/1~12/31)で受け取った財産の合計額から、基礎控除110万円を差し引いた金額を基礎として、計算します。

贈与税の計算式は、以下となります。

  • (贈与財産の金額 ー 基礎控除110万円)× 贈与税率 ー 控除額 = 贈与税額

18歳以上の者が直系尊属から贈与される場合は、一般税率より若干有利な特例税率を使用する事ができます。

贈与税の特例税率は、以下となります。

基礎控除後の課税価格 贈与税率 控除額
~200万円 10%
~400万円 15% 10万円
~600万円 20% 30万円
~1000万円 30% 90万円
~1500万円 40% 190万円
~3000万円 45% 265万円
~4500万円 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円

贈与財産が1億円の場合、計算される贈与税は、4799.5万円にもなります。

相続時精算課税制度

特例税率が使えたとしても、納める贈与税は多額になりがちです。

そこで、事業承継の際には、贈与税の特別控除枠を活用した、相続時精算課税制度を活用するのが一般的です。

この制度は、贈与者が60歳以上で、受贈者が18歳以上の直系卑属の推定相続人や孫の場合、制度を選択すると、基礎控除110万円に加え、特別控除2500万円まで、贈与財産からの控除を受ける事が可能です。

贈与財産が2610万円を超える場合は、超えた金額に20%を乗じた税率で計算される贈与税を、いったん納めます。

贈与者が死去した際は、その贈与財産と相続財産を合計した金額から相続税額を計算し、既に納めた贈与税との差額を一括して納税する制度です。

なお、計算の結果、相続税より既に納めた贈与税の方が多い場合、差額は還付対象になります。

事業承継税制を利用する場合、贈与税の相続時精算課税を併用する事はできませんでしたが、2017年の改正で併用が可能になりました。

さらに、2018年の改正で特例措置が設けられた際に、親族以外の贈与においても、相続時精算課税の併用が可能になりました。

相続税

相続税とは、被相続人(亡くなった方)から相続等で財産を取得した場合にかかる税金で、相続人(財産を受け取った人)が納めます。

現預金や不動産、自社株の評価額等の合計額が相続税の基礎控除額を下回っていた場合、相続税の申告や納税は必要ありません。

基礎控除の計算式は、以下となります。

  • 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 相続税の基礎控除額

例えば、配偶者と子2人の場合は、以下のようになります。

  • 3000万円 + 600万円 × 3人 = 4800万円

相続税の税率は、以下となります。

法定相続分に応じた金額 相続税率 控除額
~1000万円 10%
~3000万円 15% 50万円
~5000万円 20% 200万円
~1億円 30% 700万円
~2億円 40% 1700万円
~3億円 45% 2700万円
~6億円 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

 

猶予される税額の試算

ここで、事業承継税制を利用した場合、猶予される税額を具体的に試算してみます。

試算の前提として、以下のようなケースを考えてみます。

  • 自社株評価:1億円
  • 他の財産:なし
  • 家族構成:配偶者+子2人
  • 遺産分割:全て子が相続(配偶者税額軽減の適用なし)

贈与の場合

相続時精算課税制度を使う事を前提にすると、贈与税は以下のように計算されます。

  • (1億円 ー 基礎控除110万円 ー 特別控除2500万円) × 20% = 1478万円

相続の場合

相続税は、以下のように計算されます。

① 課税価格から相続時と贈与時の基礎控除額を引いて、課税遺産総額を求めます。

  • 1億円 ー 相続控除4800万円 ー 贈与控除110万円 = 5090万円

② 課税遺産総額を法定相続分で取得したと仮定して、相続税の総額を求めます。

  • 配偶者 2545万円 × 15% ー 50万円 = 331.75万円
  • 子2人 (1272.5万円 × 15% ー 50万円) ×2 = 281.75万円
  • 相続税の総額 331.75万円 + 281.75万円 = 613.5万円

相続時精算課税制度を使って贈与していた場合は、以下の金額が還付されます。

  • 既に納めた贈与税1478万円 ー 相続税613.5万円 = 864.5万円

税額早見表

相続時精算課税制度を利用して贈与を行った場合の贈与税、相続発生時における相続税(配偶者+子2人、配偶者税額軽減の適用なし)、及びその際の精算額(いずれも自社株以外の財産がない場合)をまとめると、以下のようになります。

自社株評価 贈与税 相続税 納付or還付(△)
5000万円 478万円 9万円 △469万円
1億円 1478万円 614万円 △864万円
2億円 3478万円 2673万円 △805万円
3億円 5478万円 5682万円 204万円
5億円 9478万円 1億3063万円 3585万円
10億円 1億9478万円 3億5568万円 1億6090万円
20億円 3億9478万円 8億6822万円 4億7344万円

 

まとめ

事業承継税制は、適用して終わりではなく、3代目に引き継がれるまでの間、もしかしたら数十年も要件を満たし続ける事が必要です。

会社経営は様々な浮き沈みに晒されますので、この制約が資本政策や組織再編の足かせにならないとも限りません。

そう考えると、自社株の評価がある程度見込めない場合は、猶予される税額に手間やコストが見合うのかどうか、慎重に検討を進める必要があります。