合併か、清算か。それが問題だ

2023年10月20日組織再編

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オーナー社長さんは、複数の法人を運営しているケースが多いです。

理由は様々ですが、事業の拡大に伴って、若しくは取引先との関係上、法人を分ける必要に迫られるなどのケースが多いように思います。

さて、複数の法人を運営しているということは、当然メリットがあってそうしたのだと思いますが、時の経過と共にそのメリットが薄れ、デメリットになってしまう場合があります。

その場合、法人数を減らす事を検討すると思います。

法人ごと売却できればいいのですが、その法人の事業に魅力がない、若しくは事業をたたむ場合はどうでしょうか?

その時問題になるのが、合併か、清算かという問題です。

 

両者の違い

費用面

  合併 清算
登録免許税 6万円 4万円
官報への公告掲載 4~22万円 4万円
合計 10~28万円 8万円

※上記金額は概算、専門家費用は除く

官報の費用に幅があるのは、決算公告を同時に出すかどうかの違いです。

株式会社で、毎年決算公告を欠かさず行っている場合は、直近の公告で代替できますが、多くの中小企業は決算公告を行っていないのが実情かと思います。

その場合、合併会社と被合併会社の2社分の決算公告を載せる必要があり、枠取りのために高額になります。

因みに、合同会社の場合は決算公告がそもそも不要なので、最低料金でいけます。

上記だけで比較すると、費用面では清算の方が有利だと言えそうです。

手続き面

  合併 清算
官報公告期間 1ヵ月 2ヶ月
トータルの所要期間 2ヶ月半程度 3ヶ月半程度
登記手続 1回 2回
税務申告 1回 2回

次に、手続き面での違いを比較してみます。

合併の場合は、公告期間が1ヵ月と短く、登記や税務申告も1回で済みます。

対して清算の場合は、公告期間が2ヶ月と長く、登記や税務申告についても、解散と清算結了の2回分必要となります。

合併は、仮に消滅会社の事業を廃止するのだとしても、合併後の法人に権利・義務が引き継がれるのに対し、清算の場合は、その文字が示す通り、会社の「終わり」になります。

但し、清算とは名ばかりで、第二会社へ脱法的に事業を移す場合は、租税債務などを免れることはできません。

でも通常の場合は、清算結了を終えると、債権者は請求する相手を失う事になります。

その分、清算結了の前に解散登記を行うことによって、従業員含めた利害関係者への準備期間を長めにとり、公告の周知期間も長くとって、債権者の保護を厚くしているのだと思います。

上記だけで比較すると、手続き面では合併の方がシンプルだと言えそうです。

 

税務面の検討

  合併 清算
繰越欠損金の引継ぎ 要件満たせば可 個人株主の場合、不可
みなし配当課税 なし あり
役員退職金の支給

税務面の主な検討事項は、こんな感じでしょうか。

順番にみていきましょう。

繰越欠損金の引継ぎ

消滅会社に多額の繰越欠損金がある場合、これを活用できるか否かによって、将来の課税関係に大きなインパクトが生じます。

まず、合併の場合。

同一のオーナーが100%株主、かつ合併対価が交付されない、いわゆる「無対価」の合併の場合は、税制上「適格合併」となります。

その場合、含み益などを実現させずに、資産・負債を簿価で引き継ぐことが可能になります。

よく間違われますが、この要件を満たせば、無条件で消滅会社の繰越欠損金を引き継げるわけではありません。

ざっくり言えば、株の保有を始めてから5年超であれば、制限なく引き継ぐことが可能になります。

組織再編の手法として、よそから買収した会社を、他の所有法人の100%子会社にした上で合併させる事があります。

これは税制適格にできても、繰越欠損金の引継ぎはできないケースがあるので、注意が必要です。

次に、清算の場合。

清算予定の法人が、一方の法人の100%子会社で、合併時と同様の引継ぎ制限に抵触しなければ、子会社の繰越欠損金を親会社が引き継ぐ事が可能になります。

但し、これは株主が法人の場合です。

株主が個人の場合は、法人の繰越欠損金を個人が引き継ぐことができないので、消滅会社の繰越欠損金は行き場を失います。

このように、法人ごとの成り立ちや資本関係をよく吟味した上で、組織再編の手法を検討しないと、せっかくの繰越欠損金が無駄になる可能性があるので、ここは慎重な検討が必要です。

みなし配当課税

合併と清算における最も大きな違いで、金額的なインパクトも大きくなりがちです。

適格合併の場合、前述の通り簿価での引継ぎが可能になりますので、消滅会社における利益剰余金は、そのまま合併会社に引継がれることになります。

しかし、清算の場合はそうはいきません。

清算とは、会社の残余財産を確定し、株主に分配を行うことを指します。この分配に対して課税されるのが、みなし配当課税です。

因みに、出資額を超えて分配される部分に課税されるのであって、出資額そのものには課税されません。

また、剰余金がマイナスの状態であれば、そもそも課税される金額がないので大丈夫です。

このみなし配当に対して課される税率は、上場会社のような分離課税の20%ではありません。

清算法人が未上場で、オーナー個人に対してみなし配当が行われる場合、基本的に所得税と同じ税率です。(但し、一定の範囲で配当控除を受けることが可能です)

つまり、業歴が長くて剰余金が積みあがっている会社で、みなし配当が数千万円になる場合は、累進課税で恐ろしいほどの納税額になります。

また、総合課税の適用を受けますので、他に収入がある状態だと、その収入も合算されてしまい、ダメージがとても大きいです。

こうした事情から、複数ある法人の1つをたたむ場合は、安易に清算を選ぶべきではありません。

また、合併によってみなし配当の問題を短期的にクリアできたとしても、合併後の法人をたたむ際には同様の問題に直面するので、組織再編の手法とタイミングを慎重に検討する必要があります。

役員退職金の支給

ここは、合併・清算共に、事業を廃止する側で考えてみましょう。

清算であれば、役員退職金の支給を検討すると思います。

その分、BS上の利益剰余金が減額され、みなし配当課税を減らす事ができるので、一般的な算式に則った退職金の範囲であれば、支給しない選択肢はないと思います。

合併であればどうでしょうか?

存続会社で役員報酬を得ている場合は、現役を引退する訳ではないので、消滅会社で退職金をもらう感覚は、あまりないと思います。

でも、ここは退職金を支給する方が有利な場合が多いです。

そもそも、事業の違いから法人を分けているはずなので、一つの事業をたたむ際に、その職務に係る立場で退職金を得るのは、不自然ではありません。

現に、複数の会社役員を兼務している方は、一つの会社を退職する度に、複数回の退職金をもらっています。

但し、退職所得の計算上、短期間に退職を繰り返すのは不利になりますので、4年以上のインターバル、5年以上の在職期間が望ましいです。

もちろん、消滅会社の損益状況や、利益剰余金に余裕がない場合は、この限りではありません。

両社の財務状況や、支給のタイミング等も含めて、総合的に検討する必要があります。

 

対外的な見え方

最後に、対外的な見え方を考えていきます。

今までテクニカルな部分を見てきましたが、対外的な見え方は、組織再編を検討するきっかけとして、実は一番大きな動機なのではないかとも思います。

所有法人が複数あると、全ての法人の財務内容が優良という事は稀で、少なからずバラつきます。

本体とは別に設立した会社が儲かっているのに、本体は赤字続きで財務内容が悪化、なんてケースもあります。

こうなると、何のために複数の会社があるんだ、という話になってきます。

同一支配下の会社間で損益を通算するだけなら、連結納税制度というのがありますが、バランスシートの見栄えが悪いのは、厄介な問題です。

ここで、優等生の別会社を本体に取り込んで、財務内容を一気に改善するという発想が生まれてきます。

逆に、劣等生の別会社を本体に取り込むケースもありますが、本体の会社に借入金があると、金融機関が合併に反対する事もあります。

この場合は、別会社を清算する方法などを検討します。

 

まとめ

両者の違いを中心に書きましたが、特に税務面は、有利不利を単純に論じることは難しいです。

その点を含めて、最後にまとめてみます。

合併がいい場合

  • 消滅会社に繰越欠損金があり、無駄にしたくない
  • みなし配当課税を受けると、資金繰りが悪化して困る
  • 存続会社の財務内容が悪く、消滅会社の剰余金を引継ぐことにより、BSの見栄えを良くしたい
  • 合併に反対しそうな債権者はいない

清算がいい場合

  • 消滅会社に繰越欠損金はなく、引継ぎは問題とならない
  • どちらも多額の剰余金があり、みなし配当課税を先送りしない方がいい
  • 消滅会社が財務内容が悪く、存続会社の債権者が合併に反対しそうだ

 

いかがでしたでしょうか。

目先の納税額に囚われていると、長期的な視点を見失うことにもなりますので、組織再編は慎重に検討することをお勧めします。