合併・相続時の課税事業者判定

消費税・インボイス,組織再編

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合併や相続で事業を引き継いだ場合、その後の課税事業者の判定はどうしたらいいのでしょうか?

既に課税事業者として事業を行っている場合は、引き続き課税事業者になる場合が多いので、そんなに悩む必要はないかも知れません。

でも、自分が非課税事業者で、引き継ぐ事業が課税事業者の場合、いつから課税事業者になるのでしょうか?

また、どちらも非課税事業者の場合で、両社の課税売上を足したら1000万円を超えるようなケースは、どのような対応が必要なのでしょうか?

今回は、合併や相続時における課税事業者の判定について、詳しく見ていきます。

 

合併時の課税事業者判定

まず、存続会社(合併法人)が非課税事業者で、課税事業者選択届出書を提出しておらず、基準期間や特定期間の課税売上が1000万円以下との前提を置きます。

仮に、存続会社は3月決算、消滅会社(被合併法人)が12月決算で、合併期日は2024年7月1日とします。

各々の年度別の課税売上は、以下であったとします。(単位:万円)

存続会社 前々期 前期 合併 翌期 翌々期
23/3期 24/3期 25/3期 26/3期 27/3期
500 700 900 1500 1800
消滅会社 22/12期 23/12期 24/6
1200 1400 600

なお、特定期間による課税事業者の判定は、割愛しています。

合併があった年度

消滅会社は12月決算なので、2024年1月~6月の6ヶ月決算を行った上で、解散の税務申告を行います。

一方、存続会社は3月決算なので、2024年6月末時点の消滅会社のBSを引継ぎ、2024年7月1日以降のPLも引継ぎいだ上で、2025年3月期の決算を行います。

この時の課税事業者判定は、以下のように行います。

  • 2024年1月~6月 存続会社の基準期間(23/3期)500万円
  • 2024年7月~12月 消滅会社の基準期間(22/12期)1200万円

つまり、合併前の半年間は、存続会社の基準期間で判定するので従来通りですが、合併後の半年間は、消滅会社の基準期間で判定される事になります。

上記の例で言えば、消滅会社が課税事業者になるので、存続会社は期の途中から課税事業者になります。

期の途中から課税事業者になる場合は、消費税の記帳方法が期の途中から変わる事になるので、会計ソフトの設定には特に気をつける必要があります。

ところで、基準期間における両社の売上高が1000万円以下であったとしても、合算したら1000万円を超える場合、どうなるのでしょうか?

答えは、合併年度における基準期間の売上高は、合算しません。

纏めると、以下になります。

  • どちらかが課税事業者の判定であれば、合併後は課税事業者
  • 両社とも非課税事業者の判定であれば、合併後も非課税事業者

合併の翌年度

2026年3月期、翌年度の存続会社における課税事業者判定は、基準期間における両社の課税売上を合算します。

両社の決算期は3ヶ月ずれていますが、この時の基準期間は、合併があった年度の前の年度になります。

正確に言うと、「存続会社の合併があった日の属する事業年度開始の日の1年前の日の前日から、1年を経過する日迄の間に終了した消滅会社の各事業年度」となります。

消滅会社の基準期間は、存続会社の基準期間で始まる年度ではなく、終了する年度になる点に注意が必要です。

上記の例で言えば、存続会社は2024年3月期700万円、消滅会社は2023年12月期1400万円を合算し、課税売上2100万円で判定する事になるので、課税事業者になります。

合併の翌々年度

2027年3月期、翌々年度も課税売上を合算して判定する点は同じですが、対象となる基準期間の算定に、ひと手間を要します。

消滅会社の基準年度の課税売上は600万円ですが、これは合併があった年度であり、期の途中で解散しているので、フルイヤーの売上高ではありません。

その為、合併年度の売上高を年換算し、期初から合併するまでの3ヶ月に補正して合算する必要があります。

具体的な計算方法は、以下となります。

  • 600÷6ヶ月×3ヶ月=300万円

存続会社の課税売上900万円と合算すると1200万円になるので、課税事業者になります。

簡易課税制度の適用

簡易課税制度の適用についても、注意が必要です。

前提に書いたように、存続会社の基準期間は非課税事業者の判定ですが、過去に簡易課税制度選択届出書を提出している場合もあります。

消滅会社の基準期間が課税事業者の判定であれば、合併期日以降の期間は消費税の申告対象となりますが、存続会社が簡易課税、消滅会社が本則課税の場合、申告方式はどちらになるのでしょうか?

答えは、存続会社の申告方式が引き続き適用されるので、簡易課税になります。

この事は、合併翌期、翌々期においても同様なので、課税売上5000万円以下の適用要件を満たすかどうかは、存続会社の基準期間における課税売上高のみで判定されます。

消費税法基本通達13-1-2

本則課税に戻りたい場合は、合併が行われる期が始まる前日までに、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しておく必要があるので、事前の準備が必要です。

但し、簡易課税制度を一度選択すると、2期は継続する必要があるので、簡易課税を始めた時期についても、確認が必要です。

 

相続時の課税事業者判定

ここまで法人同士の合併の場合を説明してきましたが、相続で事業を承継した場合における課税事業者判定についても、同様の規程が適用されます。

相続発生の年から翌々年

相続があった年は、相続発生日までは相続人の納税義務に従いますが、相続発生の翌日から12月31日までについては、合併の時と同様に、相続人と被相続人のどちらかが課税事業者の場合、相続人は課税事業者になるので、年の途中で消費税の記帳方法が変わるケースがあります。

翌年、翌々年における考え方も合併と同じで、相続人と被相続人の事業における課税売上を合算して、1000万円を超える場合は課税事業者になります。

法人と違って、個人の申告は暦年単位なので、翌々年において、基準期間の課税売上の補正を行う必要はありません。

事業を分割承継した場合

2以上の事業を複数の相続人が分割承継した場合、被相続人の課税売上のうち、その相続人が承継した事業場に係る金額を、課税売上とします。

なお、複数の相続人がいる場合で、相続対象の事業が未分割の場合、各相続人が共同して事業を承継したものと看做されます。

その場合、各相続人における基準期間の課税売上は、被相続人の課税売上に各相続人の相続割合を乗じた金額が、課税売上となります。

納税義務の免除の特例

 

最後に

消費税の課税事業者判定において、合併と相続で適用される規程は、ほぼ同じである事がわかります。

どちらも、別個に存在していた事業主体が、合併や相続を機にひとつになる点は同じなので、法人と個人で同じルールが適用されるのは当然かも知れません。

ただ、課税事業者の判定には基準期間の他にも特定期間が存在する点や、簡易課税制度の適用有無は、存続(相続)する側においてのみ判定する点など、消費税にはミスを誘う内容が多く存在します。

相続の場合、予め準備という訳にはいきませんが、合併の場合は事前に準備する事ができますので、消費税の影響は慎重に見極めたいものです。