事業承継税制 一般措置と特例措置の違い
⏱この記事は 5 分で読めます。
2009年に創設された事業承継税制ですが、要件を緩和する改正が、たびたび行われてきました。
複雑な制度なので、使い勝手の悪さが原因と思います。
ただ、要件を緩和しても、この制度の利用が抜本的に促進されたとは言い難い状況でした。
そうした中、事業承継を諦めて廃業する事業主があとを絶たないため、従来の一般措置に加え、新たな特例措置が2018年に設けられました。
この特例措置は、2018年1月~2027年12月迄、10年間の時限措置ですが、その適用を受けるための特例承認計画の提出期限は、2024年3月迄となっており、あまり時間がありません。
今後、提出期限が延長される可能性はあるものの、残された時間はあと少しです。
今回は、この特例措置が一般措置と比べて何がいいのか、違いを見ていきます。
一般措置と特例措置の比較
まず、両者の違いを表でまとめてみます。
一般措置 | 特例措置 | |
特例承認計画 | 不要 | 必要 |
適用期限 | なし | 2027年末迄 |
対象株式 | 議決権株式の2/3迄 | 全株式 |
納税猶予割合 | 贈与100%・相続80% | 100% |
後継者 | 1人の経営者から、筆頭株主1名のみ | 複数の株主から、持ち株10%以上3人迄 |
雇用確保条件 | 5年平均80%以上維持 | なし |
5年以降の減免要件 | 民事再生、会社更生等 | 左記に加え、譲渡・合併・解散等の「事業の継続が困難な事由」 |
相続時精算課税制度の適用 | 直系卑属のみ | 直系卑属以外の後継者も可 |
出所:国税庁パンフレット
各要件の内容
特例承認計画
一般措置では不要ですが、特例措置の適用を受ける場合は、特例承認計画を都道府県庁に提出し、認定を受ける必要があります。
適用期限
一般措置に適用期限はありませんが、特例措置の適用期間は2018年1月~2027年12月迄、10年間の時限措置になっています。
ちなみに、特例承認計画の提出期限は2024年3月迄(当初は2023年3月迄)なので、提出してから2027年12月迄に承継を行う必要があります。
対象株式
一般措置では、対象となる株式は、発行済議決権付株式の2/3迄に制限されていました。
特例措置では、この制限が撤廃され、全株式が対象となりました。
納税猶予割合
一般措置では、相続時の納税猶予割合が80%に制限されていました。
特例措置では、この制限が撤廃され、相続時においても納税猶予割合が100%になりました。
上記の対象株式の制限と合わせると、特例措置では事業承継時の贈与税・相続税の現金負担がゼロになりました。
後継者
一般措置では、1人の先代経営者(その後の改正で、複数の株主も可)から、1人の後継者へ贈与・相続される場合のみが対象でした。
特例措置では、この制限が撤廃され、親族以外を含む複数の株主から、持ち株10%以上の後継者(最大3人)への承継も対象になりました。
昭和の時代に設立された会社だと、株主が親族以外にも分散しているケースがあるので、中小企業の実態に即した対応と言えます。
また、複数人で共同して経営するパートナーシップも一般的になってきましたので、今の時代にあった、より柔軟な事業承継が可能になると思います。
雇用確保要件
一般措置では、承継後5年間の平均で80%以上の雇用維持が必要でした。
特例措置では、この制限が事実上撤廃され、80%未達でも納税猶予は継続されます。
但し、要件を満たせなかった場合には、理由報告が必要です。
さらに、その理由が経営悪化が原因である場合等には、理由報告に加えて、経営革新等支援機関による指導助言を受ける必要があります。
なお、雇用確保要件を表にすると、以下のようになります。
要件 | 5年間 | 5年経過後 | |
一般措置 | 特例措置 | ||
雇用の80%以上を5年間平均で維持している | 要 | 要件緩和 | 不要 |
5年経過後の減免要件
贈与・相続から5年後以降の減免要件は、一定の事象が生じた際に、その時点での評価額で贈与税・相続税を再計算し、超える部分の猶予税額を免除するものです。
再計算された税額は、譲渡等の時点における相続税評価額の50%が下限になります。但し、譲渡等から2年後において、雇用の半数以上が維持されている場合は、実際の対価に基づく差額がその時点で免除されます。
一般措置では、民事再生や会社更生等の事象に限定されていました。
特例措置では、上記に加え、譲渡や合併による消滅、解散時に「経営環境の変化を示す一定の要件」を満たす場合も、減免の要件になりました。
「経営環境の変化を示す一定の要件」とは、以下の5つの要件です。
- 過去3年間の内、2年以上の赤字
- 過去3年間の内、2年以上の売上減
- 有利子負債≧月商6ヶ月
- 類似業種の上場企業の株価が、前年の株価を下回る場合
- 心身の故障等により、後継者による事業継続が困難場合(譲渡・合併のみ
経営環境の変化によって、自社株の評価が毀損することもあり得ますが、一般措置の場合、過去に計算された税額を納める必要があるので、事業の売却や合併などの抜本的な組織再編を検討する場合、それがネックになる可能性があります。
特例措置の場合は、経営環境の変化によって自社株の評価が下がっても、その時の評価で税額が再計算されますので、納税の不安を和らげる効果があると思います。
なお、5年経過後の猶予税額が減免される事象についてまとめると、以下のようになります。
事象 | 5年間 | 5年経過後 | |
一般措置 | 特例措置 | ||
経営環境の変化を示す一定の要件 | × | × | 減免 |
民事再生・会社更生 | 減免 | ||
破産・特別清算 | 免除 |
相続時精算課税制度の適用
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の直系尊属(父母・祖父母)から、18歳以上の直系卑属(子・孫)に対して、財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度で、2500万円の特別控除が受けられれます。
一般措置の適用対象者は原則と同じですが、特例措置では親族の要件が外れ、60歳以上から18歳以上の一般の人への贈与でも適用を受ける事ができるようになりました。
まとめ
特例措置では、これまでネックとなってきた様々な要件が緩和されています。
対象株数や納税猶予割合の緩和によって、実質的に現金負担がゼロになった点や、雇用維持の要件が緩和された点は大きいと思います。
特に、今後業績が悪化するかもしれない中小企業にとって、納税負担が将来に繰り越されるだけで、いつ納税負担が発生するか予測できないような制度であれば、利用を躊躇するのも仕方ないと思います。
また、事業を売却する事態に至った際、特例措置では猶予税額が再計算されますので、事業価値が毀損している場合のM&Aは、やり易くなったと言えます。
まだ課題は多いものの、一般措置との比較で言えば、特例措置の一択と言えるでしょう。