簡易課税制度を選択すべき人
⏱この記事は 4 分で読めます。
消費税の制度って、本当に複雑です。
特にインボイス制度の開始に伴って、インボイス制度自体が複雑であることに加えて、負担を軽減するはずの経過措置まで複雑なので、本則課税の課税事業者の事務負担が爆増しています。
今回は、この爆増する負担を大きく軽減する効果がある、簡易課税制度についての解説です。
非常に使い勝手がよく、経費率の少ないサービス業などは、大きな節税にもなります。
制度の概要
まず制度の概要です。
制度を使える事業者
この制度を使えるのは、基準期間の年間売上高が、税抜5000万円以下の課税事業者です。
基準期間とは、消費税の適用を判断する期間のことで、2期前の会計期間のことです。つまり、売上が税抜5000万円を超えたら、2期後からは本則課税の適用を受けるという事です。
ちなみに、消費税の納税義務を判定する期間として、特定期間というものもありますが、簡易課税制度の適用判断には関係ありません。
また、基準期間において免税事業者だった場合は、税抜という概念はありませんので、税込での売上高で判定する事になります。
基準期間はよく間違われますが、その年の年間売上高で判定する訳ではありません。なので、売上高が基準を超えそうだからと言って、その年がいきなり本則課税になる訳ではありませんので、ご安心を。
制度を使うには
この制度を使うには、適用を受けようとする会計年度の、前の年度末までに簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。
事前の提出が必要な為、その年の損益状況を見ながら、簡易課税と本則課税、有利な方を選択するという事ができません。
つまり、後出しじゃんけんが禁止されています。
また、一度提出しておけば、売上が5000万円を超えて、本則課税の適用を受けた期があったとしても、簡易課税に戻る際に、改めてこの届出書を提出する必要はありません。
消費税の計算方法
では、消費税の計算方法は、本則課税と何が違うのでしょうか?
本則課税の本則とは、つまり通常の計算方法という意味です。
通常の計算方法では、預かった消費税から、支払った消費税を差し引き、差額を納税します。
支払った消費税の方が多い場合、状況にもよりますが、消費税が還付される事もあります。
これに対し、簡易課税においては、支払った消費税を考慮しません。
「みなし仕入率」という概念によって、簡便的に売上高のみで納税額を計算します。
この支払った消費税を考慮しなくていいという点が、爆増する負担を軽減してくれる、大きなポイントです。
みなし仕入率とは
このみなし仕入率は、業種や取引形態毎に6種類に区分されていて、下記のような率に定めれています。
みなし仕入率 | 主な業種・取引形態 | |
第1種 | 90% | 卸売業 |
第2種 | 80% | 小売業 |
第3種 | 70% | 飲食店(テイクアウト)、製造業、建設業 |
第4種 | 60% | 飲食店(店内)、建設作業員、固定資産の売却 |
第5種 | 50% | サービス業 |
第6種 | 40% | 不動産業 |
みなし仕入率とは、その業種における、平均的な課税仕入の割合だということです。
100%からみなし仕入率を引いた比率は、だいたいの粗利率を意味しています。例えば、卸売業は10%、小売業は20%という具合です。
小売業の場合、課税仕入にならない人件費の割合が高いので、小売業の方が粗利率を高く設定している点は、頷けます。
もちろん、同じ業種でもいろいろな利益率の会社があるので、一概に平均値を言い当てる事はできませんが、この制度の良い所は、「選択できる」という点です。
もし、原則通りの計算の方が、納税額が少なく計算されるのであれば、簡易課税を選択せずに、本則課税のままでいればいいのです。
但し、一度簡易課税を選んでしまうと、最低2年は本則課税に戻る事ができません。
本則課税に戻りたい場合は、戻りたい期が始まる前日までに、簡易課税制度選択不適用届出書を提出する必要があります。
具体的な計算例
ここで、具体的な計算例を示します。
サービス業
フリーランスの方は、大部分がサービス業である第5種に分類されると思いますが、この時のみなし仕入率は50%なので、消費税納税額は以下のようになります。
売上高550万円、事業経費110万円の場合
【本則課税】仮受消費税50万円 ー 仮払消費税10万円=40万円
【簡易課税】仮受消費税50万円 ×(100%-みなし仕入率50%)=25万円
このように、事業経費の少ないフリーランスの方であれば、原則通りの計算では40万円と計算されるところ、簡易課税を選択すれば25万円と、納税額を15万円分だけ圧縮する事ができました。
小売業
小売業は第2種に分類され、この時のみなし仕入率は80%なので、消費税納税額は以下のように計算されます。
売上高3300万円、課税仕入2200万円の場合
【本則課税】仮受消費税300万円 ー 仮払消費税200万円=100万円
【簡易課税】仮受消費税300万円 ×(100%-みなし仕入率80%)=60万円
このように、一定水準の利益率が確保されいる小売業の場合は、簡易課税の方が有利に計算されますし、事務上の負担が軽減されるので、簡易課税を選択すべきと言えます。
一方、同じ売上高でも、下記の場合はどうなるでしょうか。
売上高3300万円、課税仕入2750万円の場合
【本則課税】仮受消費税300万円 ー 仮払消費税250万円=50万円
【簡易課税】仮受消費税300万円 ×(100%-みなし仕入率80%)=60万円
このように、利益率が低い場合は、本則課税の方が有利に計算される事があります。
この場合は、事務上の負担と納税額を天秤にかけて検討しますが、増える納税額が僅かであれば、簡易課税を選択することもリーズナブルな判断と言えます。
まとめ
この簡易課税制度を上手く活用すれば、適格請求書の保存義務などからも解放されて、事務負担を大幅に軽減できますが、業種や利益状況に応じて、選択については適切な判断が必要です。
その点も踏まえ、制度を選択すべき場合と、選択すべきではない場合を、簡単にまとめてみます。
制度を選択すべき
- 売上高が5000万円以下の課税事業者
- 小規模事業者で、管理面にリソースが割けない
- 事業経費が少ないサービス業
制度を選択すべきではない
- 赤字、若しくは十分な利幅が確保できていない
- 設備購入など、大きな仕入控除を控えている
- 輸出免税取引など、消費税の還付がある業態
いかがだったでしょうか。
今回のインボイス制度を機に課税事業者になった方は、節税効果と事務負担の軽減の観点から、簡易課税制度の選択を検討するのがいいと思います。