令和6年版 年末調整手続
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今年は何といっても、定額減税で大変な思いをされた方も多かったのではないでしょうか?
今後も続いていく事務なら仕方ないですが、あんだけ大変な思いをしたのに、1回限りの事務とは。。
裏方業務は、報われないですね。
でも、総理大臣が代わって、今後もじゃんじゃんばらまくと思うので、今回習得した事務は、またどこかで役に立つかも知れません。
という訳で、令和6年の年末調整における変更点は、主に定額減税の年調減税事務に係る部分です。
定額減税の全体の流れを忘れてしまっている方は、前の記事をご参照下さい。
その他にも、前年の扶養控除申告書の内容から異動がない場合に使える「簡易な申告書」が新設されていたり、いくつか変更点があります。
それでは、詳しく見ていきましょう。
年末調整のスケジュール
まず、一般的なスケジュールについて、おさらいします。
時期 | やる事 |
10月 | 制度の改正点、使用するソフトの機能、及び今年度版へのアップデート時期について、情報収集を行う |
11月上旬 | 年末調整に必要となる書類と提出方法・期限等について、社内に周知する |
11月下旬 | 提出された書類の形式チェック、不備や未提出の場合は督促を行う |
12月上旬 | 提出された書類を基に、各従業員毎の情報をソフトに入力する |
12月下旬 | ソフトへの入力が完了したら、ソフトの計算機能を使って各人毎の所得税の還付・徴収額を集計し、12月(会社によっては1月)の給与に反映させる |
給与明細と共に、源泉徴収票を配布する | |
1月上旬 | ソフトから法定調書・給与支払報告書のデータをダウンロードし、それぞれ e-TAX、eL-TAXへ読み込ませた上で、提出書類に漏れがないかチェックする |
法定調書に記載する源泉徴収対象者への支払調書等の情報を集計する | |
1月20日 | 税務署に、年末調整後の源泉徴収額を納付する(特例納付の場合) |
1月末 | 税務署に、法定調書を提出する |
従業員の住所地の市町村に、給与支払報告書を提出する |
特に12月から1月まで、気が抜けないですよね。
年末調整の対象者
年末調整と法定調書の対象者については、以下のブログにまとめましたので、ご覧ください。
提出する書類
小さな文字がびっしりの書類。
でも、ポイントさえ押さえてしまえば、そんなに難しくありませんし、特殊なケースがなけれれば、短時間でチェックが完了するはずです。
提出必須
扶養控除等申告書
正式名称は、令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書です。
同書類の記載例は、こちらです。
令和7年となっていますが、これは翌年の給与計算における扶養人数を会社に申告する書類のため、そのような名称になっています。
他の書類が令和6年なので、ややこしいですよね。
因みに、所得税法上は、その年の12月31日時点の現況で、控除対象扶養親族等の判定を行う事になっていますが、年末調整においては、12月の最後の給与支給日の現況で判断することになっています。
なお、前年(令和5年)末には、令和6年 給与所得書の扶養控除等(異動)申告書が提出されているはずですが、年の途中入社などの事情で、まだ提出されていない場合は、年末調整のタイミングで、この分も合わせて提出を依頼します。
基・配・所 控除申告書
正式名称は、令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書です。
同書類の記載例は、こちらです。
これは令和2年分から新しく設けられた申告書です。
それまでは、合計所得金額に関わらず、一律に38万円の基礎控除を受ける事ができましたが、令和2年分以降は、合計所得の金額に応じて、段階的に0~48万円の控除に変わりました。
また、配偶者控除は、自分と配偶者の合計所得金額に応じて、段階的に0~38万円(老人控除対象の場合は最大48万円)の控除が受けられます
更に、年収850~1000万円までの人で、以下のいずれかの要件を満たす場合は、850万円を超える金額の10%(最大15万円)の所得金額調整控除を受けられます。
- 23歳未満の扶養親族を有する場合
- 本人が特別障害者である場合
- 扶養親族や同一生計配偶者が特別障害者である場合
共働きの場合、扶養控除は夫婦のどちらか一方しか受ける事ができませんが、この所得金額調整控除の場合は、子供が1人であっても、夫婦の両方が控除を受けられます。
なお、この申告書を提出しないと、年末調整において、基礎控除、配偶者控除、所得金額調整控除の適用を受けることができないので、注意が必要です。(改めて本人が確定申告を行えば、控除を受ける事は可能です)
※令和6年は、定額減税に係る記載事項が追加されています。
該当者のみ
保険料控除
正式名称は、令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書です。
同書類の記載例は、こちらです。
控除対象となる保険への加入がない場合、提出は不要です。
保険会社のハガキ等に記載されている保険種別と払込額が、間違いなく転記されているかを確認します。控除額の計算結果は、ソフトが自動的に行いますので、念のため、本人が記入した計算結果と答え合せを行います。
前職の源泉徴収票
転職で入社した人からは、前職の源泉徴収票を提出してもらいます。
この源泉徴収票は、年の途中で発行してもらう為、年末調整が行われていません。
1年の間に複数の職場を退職している場合、直近の源泉徴収票には、それ以前の収入は合算されていません。
従って、当年に退職した全ての勤務先からから源泉徴収票をもらわないと、年間の合計収入が把握できませんので、紛失している場合は前職に問い合わせて、改めて発行してもらうように伝えます。
普通はもらえるはずですが、なかには面倒がって発行に応じてもらえないケースもあり得ます。
その場合は、その方の住所を管轄する税務署に相談してもらうと、税務署からその勤務先に連絡が行きますので、通常はその段階で発行してもらえるようになります。
それでもダメな場合、本人から「源泉徴収票不交付の届出書」を税務署に提出してもらいます。
上記のプロセスを経て、前職から源泉徴収票を発行してもらったとしても、会社の年末調整に間に合わないケースもあるので、その場合は、本人が自分で確定申告する必要があります。
住宅借入金等特別控除申告書
いわゆる住宅ローン減税に係る書類です。
記載例は、こちらです。
住宅を購入した年は、自分で確定申告する必要があるので、控除申告書は手元にはないはずです。確定申告後、控除申告書が適用される年数分、税務署から送られてきます。
住宅を購入した次の年の年末から、この税務署から送られてきた控除申告書に必要事項を記載し、会社に提出します。
借入金額は、金融機関から送られてくるハガキに、年末時点の残高予定額が記載されていますので、その金額が間違いなく転記されているかを確認します。
提出先・保存期間
会社宛に提出された年末調整の書類は、会社が保存しますので、関係官庁に提出する必要はありません。
よく提出先に関する問い合わせを受けますが、税務署へは法定調書、自治体へは給与支払報告書の形で提出するので、従業員から提出を受けた書類そのものを提出することはありません。
但し、関係官庁から求められた際は、提出する必要があるので、年末調整の書類は7年間、会社に保存する義務があります。
定額減税の年調減税事務
令和6年の年末調整事務において、最大の難所が、定額減税の年調減税事務と言えます。
月次減税分である6~11月の月次で控除しきれなくても、年調減税分で調整する事ができる点がキモです。
でも、基本的な考え方は、従来の年末調整と同様、年間を通じた徴収額と、本来の税額の精算事務なので、ポイントさえ押さえてしまえば、そんなに難しくはありません。
控除対象者
まず、月次減税事務の対象となる人のおさらいです。
令和6年6月1日時点で勤務している人のうち、甲欄が適用されている居住者を選び出します。(基準日在職者)
以下の人は、基準日在職者に該当しません。
- 令和6年6月1日以降の給与等において、乙欄・丙欄が適用される人(扶養控除等申告書を提出していない人)
- 令和6年6月2日以後に入社した人
- 令和6年5月31日以前に退職した人
- 令和6年5月31日以前に出国して非居住者になった人
なお、この基準日在職者の確認の際、合計所得金額(見積額)は勘案しないので、収入2000万円(所得1805万円)を超えると見込まれる人も、月次減税事務の対象になっていました。
しかし、上記の人はそもそも年末調整の対象外なので、上記の人の分は、年調減税事務から除外します。
同一生計配偶者の確認
定額減税における「同一生計」配偶者は、収入103万円(所得48万円)以下の居住者です。
通常の「源泉控除」対象配偶者は、収入150万円(所得95万円)以下の人です。
この場合、所得税の控除額は、本人の収入が1095万円(所得900万円)を超えると段階的に減らされ、収入1195万円(所得1000万円)を超える場合は、ゼロになります。
しかし、定額減税の対象は、あくまでも収入2000万円(所得1805万円)以下となります。
例えば、収入1200万円の人の配偶者は、所得税における「源泉控除」対象配偶者にはなりませんが、配偶者が収入103万円以下であれば、「同一生計」配偶者になるので、配偶者の分の定額減税は受けられます。
この点は、かなり混乱が見られるので、注意が必要です。
扶養親族の確認
扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族、及び16歳未満の扶養親族のうち、居住者である人の人数を確認し、年調減税事務における計算人数に含めます。
扶養控除等申告書に記載していない同一生計配偶者や、16歳未満の扶養親族については、最初の月次減税事務を行う時までに、源泉徴収に係る定額減税のための申告書の提出を受ける事で、定額減税の人数に含める事ができます。
この申告書の提出が未済で、月次減税事務にカウントできていない扶養親族等がいる場合は、年末調整の時に改めてこの申告書を提出すれば、年調減税事務の計算人数に含める事ができます。
年調所得税額の計算
具体的な計算手順は、今後リリースされる計算ソフトが正しく計算してくれると思いますが、計算結果の検証も必要だと思うので、基本的なフローをおさらいしておきます。
- 例年通りの年末調整手続きを行い、算出所得税額を算出する
- 算出所得税額から住宅ローン減税等の税額控除額を引いて、年調所得税額を算出する
- 年調所得税から年調減税額を引いて、定額減税額控除後の所得税額を算出する
- 所得税額に102.1%を乗じ、復興税を反映した額を年調年税額とする
上記の過程で算出された年調年税額に対し、実際の徴収額の過不足との精算を行います。
3の部分が、今回新たに加わったフローです。
この時、2の時点で年調所得税がゼロ、若しくは3の年調減税額よりも少ない場合、算出される所得税額はマイナスになりますが、計算上は、ゼロとなってしまいます。
この控除しきれなかった年調減税額は、翌年の住民税決定の際に、調整給付として反映されるので、控除外額として、集計しておきます。
源泉徴収簿への表示
令和6年の源泉徴収簿は、国税庁HPから書式が入手できます。
ただ、残念ながら、今回の定額減税のフローを反映した内容にはなっていないため、欄外に以下の項目を手書き等で補記する必要があります。
- ㉔-2 年調減税額
- ㉔-3 年調減税額控除後の年調所得税額
- ㉔-4 控除外額
なお、源泉徴収簿は、法定書式ではないため、計算結果さえ合っていれば、エクセル等で作成した書式でもいい事になっています。
なので、㉔の場所に、上記の数字が入る欄を、予め設けておくといいと思います。
いずれ、計算ソフトの令和6年対応版がリリースされると思うので、少なくとも欄外手書きといったアナログな事務は、回避できるのではないかと思います。
源泉徴収票への表示
年末調整後に発行する源泉徴収票の摘要欄には、実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額××円」と記載します。
また、年調減税額の内、年調所得税額から控除しきれなかった金額を「控除外額××円」(金額がない場合は「控除外額0円」)と記載します。
更に、合計所得金額が1000万円超である居住者が、同一生計配偶者分を年調減税額の計算に含めた場合は、上記に加えて「非控除対象配偶者減税有」と記載します。
これは、住民税の定額減税において、前年の申告内容に基づいて対象人数を把握しますが、令和6年6月の時点では、源泉控除対象配偶者以外の同一生計配偶者は、人数にカウントされていません。
この分については、1年遅れて令和7年分の住民税所得割から、減税を行う事になっています。
なお、年末調整を行わずに退職し再就職しない場合や、収入が2000万円超などの理由により年末調整の対象とならなかった人は、摘要欄に定額減税等の記載をする必要はありません。
給与支払報告書の対応
年明けに各自治体宛に提出する給与支払報告書の摘要欄にも、源泉徴収票で表示した内容が、もれなく記載される必要があります。(字数制限がある場合は、内容が判別するような形で略記します)
特に、「控除外額××円」や「非控除対象配偶者減税有」の部分は、記載が漏れると、住民税の調整給付や減税が受けられなくなる可能性があるので、要注意です。
話が横にそれますが、自治体に伝えるべき数字の情報が、摘要欄の記載事項になっている点は、ものすごく不安を感じます。
システムが摘要欄を有意に読み取ってくれれば、問題ありませんが、記載事項の様式がカッチリ決まっていないので、読み取りエラーの分は、人手を介してチェックする事になるのでしょうか?
これではヒューマンエラーをわざわざ誘い込むようなもので、消えた年金と同じような問題が起きるのではないかと、心配になります。
令和6年 その他の変更点
簡易な申告書
令和7年分以降の扶養控除申告書について、記載事項に大きな変更点がない場合は、簡易な申告書で提出することが可能になりました。
今回の年末調整で言えば、令和7年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の記載事項が、前年から内容に大きな異動がない場合、下記の書式で提出する事ができます。
同書類の記載例は、こちらです。
内容の異動がない場合、本人の氏名、住所、マイナンバーを記載の上、右上の異動有無欄の「なし」にチェックを入れるか、欄がない場合は、手書きで「前年から異動なし」と表示します。
また、下記の場合は、所得控除の金額に影響がない為、「異動なし」とする事ができます。
- 源泉控除対象配偶者の所得の見積額が95万円以下
- 扶養親族の所得の見積額が48万円以下
- 障碍者、特別障碍者の障碍の程度
- 勤労学生控除で、所得の見積額が75万円、かつその他の所得が10万円以下
国税庁:簡易な申告書に関するFAQ
様式の変更
手続の簡素化を図り、利便性を向上させる観点から、扶養控除申告書と保険料控除申告書において、「あなたとの続柄」欄が削除されます。
また、基・配・所控除申告書において、定額減税に係る記載欄が追加されます。
住宅ローン減税
年末調整において、住宅ローン減税における税額控除を受ける際、従前は金融機関から送られてくる「年末残高証明書」の残高を控除計算明細書に転記し、必要事項を記入の上、勤務先へ提出する必要がありました。(この方式を「証明書方式」と言います)
令和6年以降、金融機関が税務署に「年末残高調書」を提出し、税務署が納税者に住宅ローンの「年末残高情報」を提供する「調書方式」へ、順次変更される予定です。
納税者は、税務署から「年末残高情報」がマイポータル等を通じて通知されるので、書面で出力し、勤務先へ提出します。
ただ、現状ではほとんどの金融機関が経過措置を利用して移行していないので、当面の間は、従前通りの「証明書方式」での手続になるものと思われます。
最後に
いかがだったでしょうか。
今回は従来にもまして、説明のボリュームが多くなってしまいました。
定額減税に係る変更点は要注意ですが、元々の年末調整に関するものは少ない印象です。
ポイントを押さえて、間違いが少なく、かつ効率的な事務フローを構築できればと思います。
大変だとは思いますが、年明けの法定調書提出まで、しばらくの辛抱です。
がんばりましょう!