適格か、非適格か。それが問題だ

2024年7月12日組織再編

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M&Aの世界では、買収した会社を取り込む際の方法として、適格や非適格という用語をよく聞きます。

でも、そもそも適格って、何がどう適格なんでしょうか?

適格はあくまでも税制上の概念ですが、要件が複雑で、そこをちゃんと理解しておかないと、その先に広がる税制上の有利不利の話はチンプンカンプンです。

少数株主であれば、保有する株式の会社が買収されても受け身なので、さほど悩む必要はありませんが、買収される会社のオーナーは、そうはいきません。

買収された後も事業に携わるのか否か、買収対価は現金なのか株式なのか、あるいはその両方なのか。

今回は、組織再編における税制の全体像と、買収されるオーナーにおける税制上の有利不利について、整理していきます。

 

組織再編税制とは

平成22年にグループ法人税制が導入されたのち、平成29年に組織再編においても大幅な見直しが入りました。

これにより、M&Aにおける組織再編の様々な形態において、整合の取れた税制になりました。

ここで言う組織再編とは、合併、会社分割、現物出資の他に、株式交換、株式移転、現物分配などを指します。

なお、事業譲渡は、対象の資産・負債は時価評価され、対価として金銭が交付される事が通例なので、非適格再編と同様の扱いになっています。

今回は、小規模なM&Aでは一般的な、合併を例として見ていきます。

税制適格要件

まず、話の前提となる税制上の適格要件について、見ていきましょう。

合併における税制適格要件は、グループ内の適格合併と、共同事業を営む為の適格合併の2つに大別されます。

グループ内の適格合併は、100%完全支配の関係と、50%超支配の関係によって、課される要件が異なります。

課される要件を纏めると、以下の様になります。

課される要件 完全支配関係 支配関係 共同事業
金銭等不交付
従業員引継
事業継続
事業関連性
事業規模or特定役員引継
株式継続保有

財務省HP:組織再編税制に関する資料

国税庁HP:持株会社と事業会社が合併する場合の業関連性の判定にについて

適格組織再編

上記の要件を満たした組織再編を、税制上の適格組織再編と呼びます。

税制上の適格要件を満たすと、合併の際、消滅会社の資産・負債は簿価で存続会社に引き継がれます。

消滅会社に含み益のある資産がある場合は、課税を繰り延べる効果があるため、適格要件を満たすインセンティブが生じます。

また、実務的にもバランスシートを簿価で引き継いだ方が簡便な為、現金交付が不要な場合は、適格組織再編が選ばれる理由になります。

さらに、消滅会社に繰越欠損金があり、存続会社に引き継ぎたい場合は、適格要件を満たす事が前提となります。

グループ内の適格合併は、繰越欠損金の引継ぎ制限を受ける事があり、その場合は、一定期間の支配関係継続や、みなし共同事業要件を満たす必要があります。

なお、存続会社が消滅会社の株式の2/3以上を保有している場合は、少数株主に対して合併対価が現金で交付された場合も、適格合併となります。

非適格組織再編

適格要件を一つでも満たさない場合、つまり適格組織再編以外の組織再編を、非適格組織再編と呼びます。

税制上非適格の場合、消滅会社の資産・負債は時価で存続会社に引き継がれる為、資産・負債の含み損益が顕在化します。

この場合、含み損益を敢えて顕在化させたいニーズがある場合は、合併対価として一部でも現金を交付する事で、意図的に適格要件を外す事がよく行われます。

また、そうした顕在化ニーズがない場合でも、以下のような場合は、非適格の組織再編が選ばれる理由になります。

  • 資産・負債が少額
  • 引き継ぐ繰越欠損金がない
  • 消滅会社のオーナーが、合併対価として現金交付を望んでいる
  • 存続会社が、株式交付に消極的

なお、合併対価は、現金か株式かの2択ではなく、両方で交付する事も可能です。

さらに、現金交付の部分は、税制上有利であれば、一部の現金交付分を、消滅会社側で役員退職金として支給する方法もあります。

 

オーナー側の課税関係

組織再編税制の基本的な枠組みがわかった所で、ここからが本題です。

M&Aで事業を買収する場合、通常は対象会社との資本関係はない為、適格組織再編とするには、共同事業を営む為の組織再編となります。

でも、上記で見てきたように、共同事業の要件は多く、かつ複雑です。

消滅会社と存続会社の規模は概ね5倍以内とされているので、存続会社が大手企業の場合だと、要件から外れるケースが多いと思います。

また、消滅会社のオーナー経営者が、組織再編を機に引退を希望している場合も、要件から外れてしまいます。

そうすると、小規模なM&Aの場合は、非適格の組織再編となる場合もあると思います。

株式対価の場合

適格合併の場合、消滅会社のオーナーは、保有していた株式が消滅会社→存続会社に置き換わるだけなので、オーナー個人に課税関係は発生しません。

一方、非適格合併の場合、合併対価が100%株式であっても、存続会社株式の時価が消滅会社の払込資本の持ち分を超える部分に対して、みなし配当が認識されます。

非上場会社のみなし配当は、個人の税制では申告分離課税の定率20%ではなく、総合課税の最高税率55%(住民税含む)の適用を受けます。

このみなし配当課税は、合併対価としての現金流入がないにも関わらず、課税が発生してしまう点が問題です。

なお、相続税の課税対象となった非上場株式については、その発行会社に譲渡(その会社にとっての自己株取得)した場合、配当所得ではなく譲渡所得として取り扱う、金庫株特例があります。

この特例の適用を受けるには、相続又は遺贈により株式を取得して相続税を課税された人が、相続開始から3年10ヶ月迄の間に、発行会社に譲渡する必要があります。(詳しくは、以下の記事をご参照下さい)

現金対価の場合

合併対価に一部でも現金が交付される場合、その組織再編は税制上非適格の扱いとなります。

その場合、現金の部分については、株式保有による支配の継続がない為、上記のみなし配当に加え、株式の譲渡損益も認識されます。

ちなみに、譲渡損益は申告分離課税の適用を受けるので、総合課税が適用されるみなし配当に比べれば、そんなにナーバスになる必要はありません。

なお、みなし配当は、交付された現金が消滅会社の払込資本の持ち分を上回る部分に認識されますが、譲渡損益は、個人における消滅会社株式の簿価と、払込資本の持ち分の差額に対して認識されます。

つまり、非適格合併の場合、株式の譲渡損益は、株式の部分は認識されず、現金の部分は認識されますが、みなし配当はいずれの場合においても認識される事になります。

 

具体的な事例

少し話がわかりにくいと思うので、具体的な数値を用いて説明します。

【前提事項】

  • 個人Aは、消滅会社Bの100%オーナーで、存続会社Cと合併する
  • Aが保有するB株式の簿価は200万円
  • Bの資本金等は300万円
  • 合併対価は1000万円

適格合併

C株式 200万円 B株式 200万円

個人Aの課税関係は発生しません。

非適格合併(100%現金)

現金 1000万円 B株式 200万円
譲渡損益 100万円
みなし配当 700万円

B株式の簿価と資本金等の差額100万円は、株式の譲渡損益として認識される一方、資本金等と譲渡対価との差額は、みなし配当として認識されます。

非適格合併(100%株式)

C株式 900万円 B株式 200万円
みなし配当 700万円

合併対価を株式で受け取る場合、株式保有による支配が継続していると見做されるため、C株式を手放すまで、譲渡損益は認識されません。

従って、合併対価が1000万円であっても、C株式の簿価は900万円になる点に注意が必要です。

 

最後に

税制適格要件の詳細については、専門書が多く出版されているので、そちらに譲るとして、組織再編税制は、それぞれの立場によって、様々な注意点が存在します。

今回は、買収される側のオーナーの視点に的を絞って、税制上の注意点を整理してみました。

一般に、小規模なM&Aにおいては、買収する側のペースで話が進むケースが多く、消滅会社のオーナーの視点に立った税務上の得失に関しては、検討が疎かになりがちです。

特に、みなし配当が億単位で発生するようなケースでは、総合課税の適用を受けると、個人における納税額が大変な事になりがちです。

直接合併するよりも、株式譲渡スキームでいったん100%子会社にしてから合併させるなどのスキームを、事前に検討しておく事が重要です。

組織再編税制は他にもヒヤッとする点が多いので、合併等を検討する場合は、個人株主、消滅会社、存続会社における多面的な検討を行うと良いと思います。