法人成りにおける消費税の注意点
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個人で立ち上げた事業が軌道に乗り、取引量や従業員が増えた事を理由に、法人成りを検討する事があります。
会社組織にした方が、一般的な観点から信用を得やすくなる効果があるからですが、節税の観点も見逃せません。
節税は、大きく分けてオーナー個人に関する節税と、消費税があると思います。
オーナー個人について言えば、個人事業主は自分に対して給与や退職金を払う事ができないので、控除や税率優遇を受けるには、法人からオーナーに支払う形にした方が有利でしょう。
ただ、今回のテーマは消費税です。
ポイントは、事業開始から個人で2年、法人で2年、最大で4年間、非課税でいられるというものですが、いくつか注意点があります。
この注意点をしっかり踏まえつつ、スタートアップに有利な対策について、解説します。
課税事業者判定の仕組み
基準期間
消費税は、基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、課税期間における納税義務が免除されます。
基準期間とは、課税期間(当期)の2年前の課税期間の事です。
つまり、課税期間の売上高が1000万円以下であっても、2年前の課税売上高が1000万円以上であれば課税事業者になりますし、逆の場合は納税義務が免除されます。
特定期間
上記の基準期間とは別に、特定期間という判定基準も存在します。
これは、前年の上半期(個人であれば1~6月)における課税売上高が1000万円を超える場合、翌期から課税事業者になります。
なお、この判定は売上高に代えて特定期間中に支払った給与等の金額によって判定する事もできます。
つまり、特定期間における課税売上高1000万円超、かつ給与等支払額1000万円超の場合は、翌期から課税事業者になります。
個人事業の非課税期間
さて、ここからが本題です。
個人で立ち上げた事業ですが、それ以前は事業をしていないと思います。
脱サラして開業した場合も、脱サラ以前は事業収入ではなく、給与収入だったはずなので、この部分は事業にカウントされません。
ここで課税事業者の判定基準に従えば、開業から2年間は、対象となる基準期間が存在しない事になります。
正確に言えば、開業するのは年の途中で、初年度の課税売上高が1000万円に届かなければ、最初の年はノーカウントで、2年目・3年目も非課税になります。
年間の課税売上高が1000万円を超えるビジネスであれば、いずれ個人事業の段階で課税事業者になります。
なので、非課税期間のメリットを享受するには、課税売上高1000万円を超えた年の2年後の期が始まる迄に、法人成りを検討する事になります。
相続による事業承継
個人事業であっても、相続によって事業を承継した場合、消費税の課税事業者判定は、被相続人が事業を行っていた基準期間の課税売上高によって行う事になっています。
この際、課税事業者選択届出書、簡易課税制度選択届出書等の効力は事業を相続した相続人には及ばないので、相続人がこれらの適用を受けようとする場合には、各届出書を新たに提出する必要があります。
法人成りの例外
非課税期間のメリットを享受する為の法人成りですが、基準期間が存在しない1期目・2期目であっても、消費税の納税義務が免除されない例外があります。
資本金1000万円以上
新しく設立する法人の資本金が1000万円以上の新設法人の場合、基準期間が存在しない1期目・2期目であっても、消費税の納税義務は免除されません。
なので、法人成りで非課税期間のメリットを享受には、資本金を1000万円未満にする必要があります。
なお、資本金1000万円以上の法人であっても、基準期間が存在する3期目以降であれば、基準期間の課税売上高による判定で、非課税事業者になる場合もあります。(調整対象固定資産の課税仕入がある場合を除く)
特定新規設立法人
新設法人が特定新規設立法人に該当する場合は、基準期間が存在しない1期目・2期目であっても、消費税の納税義務は免除されません。
特定新規設立法人とは、資本金1000万円以下で、かつ下記2点の要件を満たす新設法人です。
- 他の者が株式等の50%超を直接、又は間接に保有している
- 他の者、及び他の者と一定の特殊な関係にある法人、いずれかが新設法人の基準期間に相当する期間に課税売上高5億円超である
「他の者」には、親族や完全支配している法人等が該当します。
例えば、課税売上高が5億円を超える法人が50%超を出資している会社を設立した場合、当該会社は特定新規設立法人に該当します。
消費税課税事業者の選択
輸出を行う事業であれば、輸出売上に対する免税措置を受けて、支払った消費税の還付を受ける事ができますので、非課税事業者になるメリットはありません。
その場合、設立初年度から消費税課税事業者の選択届出書を提出しますのが、この場合は、設立初年度から課税事業者になります。
法人成りの手法
以上、いくつかの例外を除き、個人で2年、法人で2年、最大で4年間、非課税でいられる事が分かりました。
ここからは、法人成りにおける具体的な手法について、見ていきます。
法人へ引き継ぐ資産
法人成りする際に、個人事業で使っていた資産を法人へ引き継ぐ必要があります。
譲渡の際、消費税が課税される資産は、棚卸資産、償却資産、営業権等です。
現預金、売掛金、貸付金、土地等については、課税されません。
また、不動産は譲渡ではなく、個人から法人へ賃貸するという形を取って、個人所有のままにするケースが多いと思います。
法人成りのタイミング
個人事業の申告は、暦年(1月~12月)しかありませんので、全て12月決算という事になります。
そうすると、新たに設立する法人も12月決算にすると、非課税期間がトータル4年間という事になります。
しかし、課税期間になる年の年初に、上記の課税対象資産を法人へ譲渡すると、個人において消費税の納税義務が発生します。
多額の棚卸資産や設備を所有している場合、この納税のインパクトは大きくなる可能性があるので、個人が非課税のうちに譲渡を完了させたいものです。
そこで、法人は非課税期間の最後である12月に設立して11月決算とします。
また、事業用資産の移転を12月中に行い、法人での事業の開始は翌1月にします。
そうする事で、事業用資産移転に伴う消費税は免除される一方、事業はぎりぎり年末まで個人で行う事ができるので、免税期間のメリットを享受する事が可能になります。
法人の免税期間は、実質1年11ヵ月となり、1ヶ月減りますが、1ヶ月分の売上より、事業用資産に課税される消費税の方が多いようであれば、この方法にメリットがあります。
その他の手続き
法人成りに関するその他の手続きとして、以下のものが挙げられます。
- 法人名義の預金開設
- 社会保険の廃止・新規加入手続
- 税務署・自治体への各種届出
- 銀行借入がある場合は、債務引受等の手続
- 賃貸物件の場合は、賃借人変更に関する手続き
なお、源泉所得税の預りは、個人と法人でそれぞれ異なる事業主として納付し、法定調書も別々で提出する必要があります。
事業引継ぎのタイミングが年末年始であれば問題ないですが、年の途中で行う場合は注意が必要です。
最後に
法人成りについては、冒頭に挙げたオーナー個人の節税の他にも、事業承継対策であったり、欠損金の繰越控除期間10年といった優遇措置、無限責任から有限責任への転換、資本政策・M&Aなどの観点があります。
今回は消費税を取り上げましたが、これから事業を立ち上げる事業者から、かなり頻繁に質問を受けるポイントでもあります。
行き過ぎた対策、例えば個人と法人で行ったり来たりするというのは、税務上否認されますが、1回限りの法人成りであれば、問題ありません。
ポイントを押さえて、有利な選択をしていきましょう。