賃上げ促進税制 2024年4月改正の要点
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賃上げ促進税制とは、従業員の賃上げや人材育成の投資を行った企業が受けられる、税額控除の優遇措置です。
現行の賃上げ促進税制は、2022年に改正を受けた制度で、その前は「所得拡大促進税制」と呼んでいました。
今回は、2024年4月1日以降に開始される事業年度で適用できる、改正後の賃上げ促進税制を扱います。
3月以前に開始した事業年度では、まだ現行制度の賃上げ促進税制が適用されますので、その内容については、過去の記事をご参照下さい。
改正後の新しい制度では、一部の条件が緩和されたり、中堅企業向けの制度や子育て・女性活躍支援に関する上乗せが新設されるなど、内容が拡充されています。
また、中小企業においては、法人税から控除しきれなかった金額の5年間繰越しが可能になるなど、業績が不安定な零細企業にも配慮が行き届いた内容になっています。
対象となる事業者
現行制度は、中小企業版と大企業版という、2つの呼び名で制度が分けられていましたが、大企業版は中小企業も使う事ができました。
改正後は、この2つに加えて中間的な中堅企業向けが用意され、大企業版という呼び名も全企業向けに改称されました。
呼称 | 共通要件 | 従業員要件 | その他要件 |
全企業向け*1 | 青色申告書を提出する企業又は個人事業主 | 制限なし | – |
中堅企業向け*1 | 2000人以下 | 従業員1万人超の企業に支配されていない事 | |
中小企業向け | 個人事業主は1000人以下 | 中小企業者等*2 (資本金1億円以下) |
*1 中小企業も活用可能
*2 大規模法人(資本金1億円超)に1/2以上、又は複数の大規模法人に2/3以上所有されている法人を除く
現行制度との違い
賃上げ要件
賃上げ要件について、税額控除率の異同を纏めると、以下の様になります。
要件 | 税額控除率 | ||
現行制度 | 改正後 | ||
全企業向け | 継続雇用者+3% | 15% | 10% |
継続雇用者+4% | 25% | 15% | |
継続雇用者+5% | – | 20% | |
継続雇用者+7% | – | 25% | |
中堅企業向け | 継続雇用者+3% | – | 10% |
継続雇用者+4% | – | 25% | |
中小企業向け | 全雇用者+1.5% | 15% | 15% |
全雇用者+2.5% | 30% | 30% |
改正後は、中堅企業向けの制度が新設されたのに加え、全企業向けに+5%と+7%の枠が新設されました。
一方、全企業向けの+3%と+4%枠については、それぞれ税額控除率が△5%、△10%縮小しています。
中小企業向けの税額控除率は現行制度から変化はありません。
教育訓練費
上乗せ要件①の教育訓練費について、前年度比増の異同を纏めると、以下の様になります。
教育訓練費の前年度比 | ||
現行制度 | 改正後 | |
全企業向け | +20% | +10% |
中堅企業向け | – | +10% |
中小企業向け | +10% | +5% |
教育訓練費の前年度比は、全企業向けが+20%から+10%へ、中小企業向けが+10%から+5%に、それぞれ要件が緩和されています。
なお、税額控除率は、全企業向け+5%(変化なし)、中堅企業向け+5%、中小企業向け+10%(変化なし)となります。
子育て両立・女性活躍
上乗せ要件②は、今回の改正で新設された子育てとの両立、及び女性活躍支援の制度になります。
以下のいずれかの要件を満たすと、税額控除率がいずれも+5%となります。
適用要件(いずれか) | ||
子育てとの両立 | 女性活躍支援 | |
全企業向け | プラチナくるみん | プラチナえるぼし |
中堅企業向け | プラチナくるみん | えるぼし三段階目以上 |
中小企業向け | くるみん以上 | えるぼし2段階目以上 |
くるみん
くるみん認可制度は、2007年からスタートした子育て支援企業の証となる認定です。
従業員の子育て支援のための行動計画に定めた目標が達成され、一定の基準を満たす場合に、厚生労働大臣が認可を行います。
次世代法では、常時雇用者101人以上の企業において、労働者の仕事と子育ての両立支援に関する取り組みを記載した行動計画を策定し、これを届け出る事が義務化されています。(100人以下の企業は努力義務)
くるみんマークは、この義務を達成し、かつ計画の目標を達成した企業が申請によって得られます。
出所:厚生労働省HP
えるぼし
えるぼし認可制度は、2016年からスタートした女性活躍推進の証となる認定です。
職場での女性活躍推進のための行動計画の策定及び届出を行った企業のうち、一定の基準を満たし、女性の活躍推進に関する状況等が優良な場合に、厚生労働大臣が認可を行います。
女性活躍推進法では、常時雇用者301人以上の企業において、自社の女性の活躍に関する状況把握と課題分析、課題解決の為の数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定、自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務として定めています。
えるぼしマークは、この義務を行った企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業が申請によって得られます。
出所:厚生労働省HP
5年間の繰越制度
従来は、当年の法人税(又は所得税)の20%を上限として、税額控除が可能となる制度でした。
つまり、この枠を超える部分は控除額が無駄になりますし、そもそも赤字であれば、控除する税金がありません。
業績が不安定な零細企業にとっては、業績の変動によって税制優遇が受けられないとなると、賃上げ等の前向きな投資を躊躇してしまうかもしれません。
そこで、そうした状況を改善するために、控除しきれなかった税額控除の金額を、5年間にわたり繰り越せる制度が新設されました。
この制度は、上記の対象となる事業者で定義した、中小企業のみが対象となります。
また、税額控除の上限額は、引き続き20%です。
最後に
今回の改正は、子育て両立・女性活躍支援など、今の政策を税制優遇という形でしっかり示した内容と言えます。
くるみん、えるぼしと、ちょっと聞きなれない用語に戸惑いますが、調べてみると、どちらも制度としてはかなり前からあったようです。
厚生労働省や経済産業省が打ち出す政策に対して、時間差をおいて税制面での優遇措置が採られるというパターンが多いように思いますが、今回もそのパターンの優遇策と言えるでしょう。
ただ、適用に認可が必要になる点は、中小企業にとってはハードルが高く、そうした事にリソースが割ける会社に限られるような気がします。
その点、5年間の繰越制度は、業績が不安定な零細企業の実情に沿った内容として、評価できると思います。
中小企業は、従来から全雇用者の支給実績で控除額を計算できるなど、大企業に比べて内容が簡素化されていますので、上手く活用していきたいものです。