連結納税改め、グループ通算制度

2024年6月6日法人税,組織再編

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グループ内に複数の会社がある場合、全ての会社で利益が出ていれば問題ありませんが、赤字の会社がある場合、その会社の赤字と他の会社の利益を相殺したくなります。

会計の世界では、連結会計という報告方法があり、上場している会社にとっては馴染みのある概念だと思います。

ただ、連結会計であっても、税務的な取り扱いは法人単位で計算されるのが原則です。

この原則を打ち破ったのが、2002年7月の法改正で導入が決まった、連結納税制度です。

この連結納税制度は、2022年3月に廃止され、その後はグループ通算制度になって、現在に至ります。

今回は、この連結納税改め、グループ通算制度の仕組みについて、内容を詳しく見ていきます。

 

連結納税制度

制度の概要

連結納税制度は、親会社と完全支配関係のある子会社(100%子会社)を一つのグループとして、親会社がグループ全体の所得(連結所得)を連結確定申告書に記載して、法人税の申告・納税を行う制度です。

法人税の制度であって、住民税や事業税など、他の税目には適用されません。

子会社は連帯納付責任を負い、個別帰属額等を記載した書類を、税務署に提出します。

制度の適用は選択制ですが、一旦選択すると継続適用が要件となります。

所得の計算方法は、連結グループ内の各法人の所得金額に所定の調整を行った連結所得金額に税率を乗じ、さらに必要な調整を経て、連結税額を求めます。

税率は、単体の税率と同じですが、制度の開始から2年間(2002年4月から2004年3月迄に開始する連結事業年度)は、2%の税率が上乗せされていました。

連結グループ内の法人間で一定の資産を譲渡した場合の譲渡損益は、グループ外への移転の時まで、繰り延べられます。

適用開始、又は連結グループへの加入に際しては、当該法人の資産を時価評価し、評価損益を計上しますが、親会社や長期保有の子会社などは、時価評価の対象とはしません。

国税庁HP:連結納税制度の概要 連結納税制度の創設

制度の欠点

連結納税制度を適用する際、適用する時点における子会社の繰越欠損金は、原則として連結納税の計算には使用できません。

従って、グループ内の子会社に多額の繰越欠損金が存在する場合は、連結納税を適用すると切り捨てられてしまうので、連結納税がデメリットになる可能性もありました。

また、この制度は親会社が一括して法人税額を算出・申告する必要があり、子会社で間違いがあった場合もグループ全体で修正が必要になる等、親会社の負担が大きい事が欠点でした。

この欠点があるため、グループ全体の損益通算によるメリットよりも、事務負担のデメリットの方が大きいとして、導入を躊躇していた企業が多かったとも言われています。

こうした経緯もあり、連結納税制度は2022年3月をもって廃止されました。

 

グループ通算制度

連結納税制度との違い

グループ通算制度は、連結納税制度の見直しという位置付けで導入され、2022年4月1日以降に開始する事業年度から適用されています。

この制度の特徴は、グループ内の各会社が個別に法人税の申告・納税をする点で、修正が生じた場合も、全体を修正するのではなく、個社別に修正する点が異なります。

連結納税制度との主な違いを纏めると、以下の様になります。

連結納税制度 グループ通算制度
納税主体 親会社(一体申告方式) 各社(個別申告方式)
修正時の対応先 親会社(全体を修正) 修正が必要な会社

経済産業省:パンフレットP16

国税庁:グループ通算制度に関するQ&A

時価評価課税と繰越欠損金

連結納税制度では、子会社がグループに加入する際は、原則として資産の時価評価を行うと共に、繰越欠損金を切り捨てる必要がありました。

グループ通算制度では、組織再編の円滑化を図る為に、加入時の時価評価課税や繰越欠損金が切り捨てられる対象を、縮小する事になりました。

特定欠損金と非特定欠損金

グループ通算制度では、欠損金は特定欠損金と非特定欠損金の2種類に分類されます。

特定欠損金は、制度開始前・加入前に生じたもので、その通算法人の所得を限度として控除できる欠損金です。

非特定欠損金は、制度開始後・加入後に生じたもので、通算グループ全体で控除する事ができる欠損金です。

欠損金の計算ルールは、まず特定欠損金を一定のルールで割り当て、控除します。

更に、特定欠損金を控除した後の所得に対し、今度は非特定欠損金を一定のルールで割り当て、控除して税額の計算を行います。

SRLYルール

SRLY(Separate Return Limitation Year)ルールとは、個別申告制限年度の事で、グループ通算制度に持ち込んだ開始前・加入時の繰越欠損金について、自己所得の範囲に限定する事を言います。

連結納税制度では、子会社の開始前・加入前の特定連結欠損金にSRLYルールが適用されていましたが、親会社の開始前の繰越欠損金には適用されなかったため、その分を子会社の所得と相殺する事が可能でした。

グループ通算制度では、親会社の開始前の繰越欠損金にもSRLYルールが適用されるようになった為、子会社の所得との相殺はできなくなりました。

中小法人等の特例

連結納税制度では、法人税法上の中小法人等の判定は、親会社の資本金の額のみで判定されていました。

グループ通算制度では、グループ内の1社でも資本金の額が1億円を超える場合、グループ内の全ての法人が「大通算法人、又は適用除外法人を含む大企業」となり、中小法人に該当しなくなります。

その為、親会社が中小法人であっても、子会社が対象外となれば、中小法人等の特例である軽減税率や、その他の税制優遇が受けられなくなります。

研究開発税制と外国税額控除等

連結納税制度では、研究開発税制や外国税額控除等については、連結グループ全体で計算していました。

グループ通算制度においても、効率的なグループ経営を促進する観点から、引き続き同様の措置が採られています。

電子申告の義務化

連結納税制度では、書面による申告も認められていましたが、グループ通算制度では、グループに所属する全ての会社について、電子申告が義務化されます。

書面で提出しても、その申告書は無効となり、無申告加算税の対象となるので、注意が必要です。

電子申告を始めるには、グループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日から1ヶ月以内に、所轄の税務署長へ「e-TAXによる申告の特例に係る届出」を提出する必要があります。(既に導入済みの会社は不要)

適用を受ける為の手続

従来から連結納税制度の適用を受けていた企業グループは、2022年4月以降、自動的にグループ通算制度に移行します。

グループ通算制度への以降を希望しない場合は、2022年4月以降に開始する事業年度の開始日の前日迄に、「グループ通算制度へ移行しない旨の届出書」を税務署へ提出する必要があります。

新たにグループ通算制度の適用を受けようとする親会社は、最初の事業年度の開始日の3ヶ月前の日までに、親会社の所轄の税務署に、承認申請書を提出する必要があります。

この承認申請書には、適用を受けようとする親会社、子会社全ての連名が必要です。

 

最後に

今回はグループ通算制度を取り上げましたが、主要な部分に触れただけでも、かなりの長文になってしまいました。

ここで書いた内容は全体の一部なので、具体的に導入を検討する場合は、実務的な部分についても、詳細な検討が必要だと感じます。

また、制度の内容も複雑ですが、適用後の体制を維持していくには、かなりのマンパワーが必要だとも思います。

確かに、連結納税制度に比べれば事務負担が軽減していますが、対象となる企業は、管理部門が充実している事が必須と思われます。

また、制度の移行に伴って使い易くなった面がある一方、要件が厳しくなっている点もあり、悩ましい所です。

損益通算は魅力的ですが、一般的なオーナー会社であれば、節税目的でこの制度の活用を考えるのは、慎重になった方がいいかもしれません。