定額減税とは?

2024年3月20日制度改正,個人税制

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年末に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」の中で、1人4万円の定額減税が盛り込まれました。

3月末頃に法案は成立する予定ですが、既に「定額減税のしかた」と題するパンフレットが関係各所へ届き始めているので、定額減税は既に実施されるものとして、世の中は動き始めているようです。

減税はうれしいですが、纏まった金額が一度に調整されるだけだと思っていたので、まさかこんな細かい事務作業が発生するとは、想像していませんでした。

特にマンパワーの少ない中小零細企業にとっての負担は大きいと思います。

今回は、突如出現した難解な事務作業を乗り越えるべく、定額減税に焦点を当てて解説します。

 

制度の概要

対象となる人

令和6年分の所得税について、定額減税の適用を受けられる人は、以下の人です。

  • 所得税の納税者である居住者
  • 収入2000万円(所得1805万円)以下の人

減税額

減税額は、本人と同一生計配偶者、及び扶養親族(いずれも居住者に限る)で、一人につき所得税3万円、住民税1万円、計4万円です。

但し、その合計額が本人の所得税額を超える場合、減税額はその所得税額が上限になります。

住民税は、前年度の所得に基づいて、毎年5月にその後1年分の納税額が決まりますので、以下で解説する給与支払事務は、所得税の方になります。

給与支払事務

定額減税は、扶養控除等申告書を提出している給与所得者(いわゆる甲欄適用者)に対して、事業所が給与等を支払う際、源泉徴収税額から控除する方法で行われます。

事業者が行う事務は、以下の2点です。

  1. 月次減税事務:令和6年6月1日以後に支払う給与等(賞与含む)に対する源泉徴収額から控除する事務
  2. 年調減税事務:年末調整時点の定額減税額に基づき、精算を行う事務

控除しきれない場合

定額減税で控除しきれないと見込まれる人は、令和5年の課税状況に応じて、令和6年夏以降、住民税が課される市区町村からおおむねの額が支給されます。(当初給付)

また、令和6年の所得税と定額減税の実績が確定したのち、当初給付で不足する金額があった場合は、追加で不足額が支給される予定です。(不足額給付)

 

月次減税事務

令和6年6月1日以降、最初に支払う給与等に対する源泉徴収税額から月次減税額を控除しますが、控除しきれない金額は、以降の令和6年中に支払う給与等の源泉徴収額から順次控除します。

控除対象者

令和6年6月1日時点で勤務している人のうち、甲欄が適用されている居住者を選び出します。(基準日在職者)

以下の人は、基準日在職者に該当しません。

  1. 令和6年6月1日以降の給与等において、乙欄・丙欄が適用される人(扶養控除等申告書を提出していない人)
  2. 令和6年6月2日以後に入社した人
  3. 令和6年5月31日以前に退職した人
  4. 令和6年5月31日以前に出国して非居住者になった人

なお、この基準日在職者の確認の際、合計所得金額(見積額)は勘案しないので、1805万円を超えると見込まれる人も月次減税事務の対象になります。

月次減税額の計算

所得税の月次減税額は、本人と同一生計配偶者、及び扶養親族の合計人数で計算します。

(例)同一生計配偶者:あり、扶養親族:2名

  • 3万円 × 4人 = 12万円

同一生計配偶者の確認

定額減税における同一生計配偶者は、収入103万円(所得48万円)以下の居住者である必要があります。

通常の源泉控除対象配偶者の定義と異なる点があるので、以下の表に纏めます。

配偶者の収入↓ 本人の収入
1095万円以下 1095万円超
150万円以下 源泉控除〇
同一生計×
両方とも×
103万円以下 源泉控除〇
同一生計〇
源泉控除×
同一生計〇

配偶者の収入が103万円超の場合は、源泉控除対象であっても同一生計配偶者に該当しません。

配偶者の収入が103万円以下で、本人の収入が1095万円(所得900万円)超の場合、源泉控除対象ではありませんが、同一生計配偶者に該当します。

ややこしいですね。

扶養親族の確認

扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族、及び16歳未満の扶養親族のうち、居住者である人の人数を確認し、月次減税額の計算に含めます。

なお、扶養控除等申告書に記載していない同一生計配偶者や、16歳未満の扶養親族については、最初の月次減税事務を行う時までに、源泉徴収に係る定額減税のための申告書の提出を受ける事で、定額減税の人数に含める事ができます。

給与等支払時の控除

令和6年6月1日以後に支払う給与又は賞与のうち、支給日が早いものから順に月次減税額を控除します。

控除前税額は、従前の計算方法と同じなので、ここから先ほどの控除対象人数に減税額を掛け合わせた金額を引いていきます。

一度の給与や賞与の源泉徴収額の範囲で控除が終われば、月次減税事務はこれで終了です。

控除しきれない金額は、翌月以降の支給額へ繰越し、年内の支給額に対して、順次控除を行っていきます。

この際、各人別控除事績簿を作成しますが、給与計算ソフトの機能で代替できる可能性があります。

主だったメーカーの機能追加はまだのようですが、新機能のリリースを待ってから対応を始めても大丈夫でしょう。

各人別控除事績簿の作成要領は、国税ホームページのパンフレットに詳しく掲載されていますので、気になる方はご参照下さい。

なお、12月までに減税額を控除しきれなかった場合は、年末調整で調整を行いますので、次項の年調減税事務で解説します。

控除後の事務

事業者が月次減税額の控除を行った場合には、給与明細にその旨を表示します。

源泉所得税の納付に際し、納付用紙の税額欄には、月次減税額の控除を行った後の金額を集計し、その金額を記入します。

なお、納付すべき源泉所得税額がゼロの場合でも、納付書の各欄の記載を行った上で、その納付書を税務署に提出する必要があります。

 

年調減税事務

今年の年末調整手続においても、定額減税が影響します。

基本的には、6~11月の月次で控除しきれなかった場合でも、1~5月で徴収税額があれば、年末調整で精算する事ができます。

基本的な考え方は月次減税事務と共通なので、異なる点に絞って書きます。

控除対象者

年末調整の対象となる人が、原則として年調減税額の控除対象者となります。

但し、この対象者の内、収入2000万円(所得1805万円)を超える人は、年末調整手続の対象外となるため、年調減税事務からは除外します。

なお、対象者の確認、減税額の計算・控除の流れは月次減税事務と同じなので、割愛します。

また、源泉徴収簿への記載についても、年末調整ソフトの一機能としてリリースされると思いますので、特段の準備は要らないと思われます。

源泉徴収票への表示

年末調整後に発行する源泉徴収票の摘要欄には、実際に控除した年調減税額を「源泉徴収時所得税減税控除済額××円」と記載します。

また、年調減税額の内、年調所得税額から控除しきれなかった金額を「控除外額××円」(金額がない場合は「控除外額0円」)と記載します。

更に、合計所得金額が1000万円超である居住者の同一生計配偶者分を年調減税額の計算に含めた場合は、上記に加えて「非控除対象配偶者減税有」と記載します。

年末調整を行わずに退職し再就職しない場合や、収入が2000万円超などの理由により年末調整の対象とならなかった人は、摘要欄に定額減税等の記載をする必要はありません。

 

最後に

いかがだったでしょうか?

のんびり構えてましたが、意外と大変だと思います。

年末調整の一発で減税できれば簡単ですが、6月支給の給与等から減税を始める事が原則とされています。

それだけ、減税の効果を早く行きわたらせたいとの政策意図が感じられますが、実務を担う現場は大変です。

ただ、オーナーとその家族のみの会社は、配慮すべき従業員がいないので、月次減税事務を省いたとしても、納めるべき源泉所得税は結局同じなので、大きな弊害はないのではないかと思います。

会社の実情に合わせて、適切に対応を図っていきましょう。