減資は節税に効果的?

2024年2月22日法人税,組織再編

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少し前の話になりますが、経営再建中のシャープが資本金を1200億円から1億円に減資するというニュースが流れました。

資本金1億円以下になると、中小企業税制の恩恵が受けられますので、節税目的なのかなと思った記憶があります。

その後、当時の経済産業相が疑義を呈したことから、1億円ではなく、5億円への減資となりました。

ところで、減資と聞くと、世間一般では未だにマイナスのイメージがありますが、減資したからといって、すぐに財務が悪化するという事はありません。

大企業なのに、中小企業化して税逃れを意図しているという点が、批判される主な要因だと思います。

一方で、2023年3月迄の1年間で、資本金1億円超から資本金1億円以下へ減資した企業は1200社余というデータがあります。

有名企業であれば、世間体がネックになるかもしれませんが、そうではない場合は、減資によって何がもたらされるか、一度検討してみる価値があります。

今回のテーマは、減資の具体的な手続きと、その効果について解説します。

 

減資の手続き

資本金の額は登記事項であり、資本金の額を減少させるには、一定の手続きを経た上で、変更の登記を法務局に申請する必要があります。

なお、減資には有償減資と無償減資があります。

有償減資であれば、減少する資本金の額は株主へ配当されますが、今回は節税を目的とした減資なので、バランスシートの中を金額が移動するだけの無償減資を扱います。

手続きの流れは、以下となります。

株主総会決議

資本金の減少には、原則として株主総会の特別決議が必要です。

但し、定時株主総会で決議する場合で、減資の目的が欠損填補(利益剰余金のマイナスを埋める事)であれば、普通決議でいいことになっています。

減資に異議を唱えそうな株主がいる場合は、2/3以上の賛成が必要な特別決議より、過半数の賛成でいい普通決議の方が、ハードルは低いでしょう。

株主総会で減資を決議する際、決議内容は以下の通りです。

  • 減少する資本金の額
  • 減少する資本金の額の全部、又は一部を準備金とする時は、その旨、及び準備金とする額
  • 減資の効力発生日

債権者保護手続き

資本金を減少させる場合、債権者保護手続きが必ず必要です。

定款での公告方法を官報にしている会社の場合、官報公告と、知れたる債権者への個別催告の両方が必要です。

但し、定款で電子公告や日刊新聞などの公告方法を定めている株式会社の場合、官報公告に加えて、電子公告や日刊新聞への掲載により、個別催告を省略する事ができます。

なお、公告の期間は1ヶ月以上である必要があります。

登記申請手続き

減資は、株主総会で定められた効果発生日に効力が生じます。

その日迄に債権者保護手続きを終わらせる必要がありますが、完了しない場合は、効力発生日前であれば、その日を変更する事ができます。

効力発生日から2週間以内に、登記上の所在地を管轄する法務局に変更登記を申請します。

変更登記は、申請書提出から1~2週間ほどで謄本に反映されるようになります。

法務局HP

 

資本金別の税制優遇制度

減資手続きの流れが分かった所で、肝心の減資後の資本金はいくらにすればいいのでしょうか?

資本金1億円以下

資本金1億円以下にすると、以下のような優遇措置があります。

優遇措置 1億円超 1億円以下
法人税の軽減税率 23.2% 所得800万円迄15%
交際費課税の特例 50%損金 800万円迄全額損金
欠損金と相殺できる所得 上限50% 制限なし
欠損金の繰戻還付 適用なし 適用あり
外形標準課税 課税対象 課税なし
地方税均等割り※ 29万円以上 18万円以下

※資本金等の額

その他の基準

その他の金額基準として、以下のような優遇措置があります。

1000万円以下※ 地方税の均等割りが最安のランク(7万円)になる
3000万円以下 中小企業投資促進税制の税額控除7%を受けられる
中小企業経営強化税制の税額控除10%を受けられる
5000万円以下 サービス・小売業は中小企業を対象とした補助金の対象になる(別途従業員基準あり)

※資本金等の額

現時点で資本金が1億円以下の企業であっても、減資する事によって何等かの優遇措置を受けられる可能性があります。

 

資本金等とは?

中小企業税制は、基本的に資本金の額が要件になっていますが、一部の制度は、資本準備金やその他資本剰余金を加えた資本金「等」が要件になっています。

資本金等を要件とする税制

資本金等を要件とする税制は、主に以下の3つがあります。

  1. 法人住民税の均等割
  2. 外形標準課税の資本割
  3. 寄付金の損金算入限度額

1と2は、地方税法上の資本金等が要件です。

2については、地方税法上の資本金等が1億円を超えていても、資本金が1億円以下の場合は、外形標準課税の適用対象外になります。

3は、以前は法人税法上の資本金等でしたが、改正により、会計上の資本金及び資本準備金の合計額になりました。

さて、ここで地方税法上、法人税法上、会計上という用語が登場したので、整理しましょう。

会計上と税務上の違い

資本金等の額における、会計上と税務上の違いは何でしょうか?

会計上は、決算書に表示されている資本金と資本剰余金(資本準備金とその他資本剰余金)の合計です。

税務上は、申告書の別表五(一)の下段に記載されている金額です。

違いが生じる主な理由は、無償増資・無償減資について、会計上は金額が移動しますが、税務上はなかった事にされる点です。

資本金の額を利益剰余金へ振り替えた場合、税務上の資本金等は変化しないので、無償減資の場合は、節税の効果が発揮されない場合があるのです。

法人税法上と地方税法上の違い

通常の無償減資の場合、税務上の資本金等の額は変化しませんが、欠損填補で無償減資する場合は、法人税法上と地方税法上で扱いが異なります。

法人税法上は、通常の無償減資同様、税務上の資本金等の額は変化しません。

一方、地方税法上の資本金等は、平成27年税制改正により、下記の手順で計算されます。

  1. 法人税法上の資本金等 ー 無償減資による欠損填補 + 無償増資
  2. 会計上の資本金及び資本準備金

1と2を比較して、どちらか大きい方が、地方税上の資本金等の額になります。

この改正により、欠損填補を目的とした無償減資の際、法人住民税均等割りの引き下げが可能になりました。

 

利益剰余金への振り替え方法

資本金については分かりましたが、資本準備金やその他資本剰余金から利益剰余金へ金額を振り替える場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?

資本金と比較すると、資本準備金やその他資本剰余金は、手続きのハードルが以下のように下がります。

債権者保護
手続き
株主総会決議
定時 臨時
資本金 原則 特別
欠損填補 普通 ×
資本準備金 原則 普通
欠損填補 不要 普通 ×
その他資本剰余金 不要 普通

なお、欠損填補の上限は、定時株主総会で承認された貸借対照表におけるマイナス幅が上限になるので、臨時株主総会で決議する場合でも、期中のマイナスを加味する事はできません。

こうして考えると、合併等で相手企業の資本金等を吸収する際は、その他資本剰余金にしておく方が、その後の処理を柔軟に行える事が分かります。

 

最後に

会社法が施行される前の商法の時代には、資本金には厳格な意味が与えられていて、会社を作る際の手続きも煩雑なものでした。

これが会社法の時代になると、資本金1円でも設立可能になり、資本の部における科目間の振り替え手続きもだいぶ簡略化されました。

今回は、減資の具体的な手続きと、節税の効果に加え、資本金以外の科目についても取り扱いました。

普段あまり気にしない項目ではありますが、長年放置されている資本剰余金などを欠損填補を目的として利益剰余金へ振り替えれば、地方税の均等割りなどは、すぐに安くなる可能性があります。

大きな節税にはならない可能性もありますが、まずは身近な所から節税を検討されてみてはいかがでしょうか。