配当金と役員退職金、どちらがいいの?
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会社経営から一線を退く場合、従業員の雇用や取引先との関係から、後継者を指名して引退するのが一般的です。
でも、従業員を雇用していない小規模法人の場合、関係先とのしがらみが少なければ、会社を清算する場合もあると思います。
この時、バランスシートに積み上がった利益剰余金はどうすればいいのでしょうか?
そのまま清算手続に進んだ場合、利益剰余金は清算配当として、社長個人に課税されます。(法人側で20.42%源泉徴収されますが、この分は個人の申告で戻ってきます)
非上場会社を前提として考えると、この配当は総合課税で、所得税と同様の累進課税の適用を受けます。
一方、会社清算時に役員退職金を支給すれば、分離課税で、なおかつ所得税より有利な税率で資金を個人に移す事ができます。
今回は、税金計算の違いに着目しながら、両者のベストバランスを考察します。
配当金の税金
前述の通り、配当金は総合課税で、所得税と同様の累進課税の適用を受けます。
例外として、年1回の配当が10万円以下の場合は、確定申告不要制度の適用を受ける事ができ、法人側の20.42%の源泉徴収で課税関係が終わりますが、ここでの検討は省略します。
よく上場会社における分離課税、税率20.315%と混同されがちですが、非上場株式の配当は分離課税を選べないので、多額の配当を行うと、とんでもない額の税金が発生します。
まず、所得税(住民税含む)の税率をおさらいしましょう。
課税所得 | 所得税+住民税 | 控除額 |
195万円以下 | 15% | 0円 |
330万円以下 | 20% | 9.75万円 |
695万円以下 | 30% | 42.75万円 |
900万円以下 | 33% | 63.6万円 |
1800万円以下 | 43% | 153.6万円 |
4000万円以下 | 50% | 279.6万円 |
4000万円超 | 55% | 479.6万円 |
さて、このままだと納める税金がかなり高額になりそうな雰囲気ですね。
実は、総合課税の適用をうける配当金には、配当控除という切り札があります。
課税総所得金額が年間1000万円以下の場合、剰余金の配当等に係る配当所得から所得税は10%(1000万円超の部分は5%)、住民税は2.8%(1000万円超の部分は1.4%)を控除できます。
他に収入がなく、基礎控除48万円(住民税は43万円)のみ考慮する場合、配当控除後の税金と、配当金に対する平均税率は、以下の様になります。
配当金 | 所得税+住民税 | 平均税率 |
200万円 | 10万円 | 5.1% |
500万円 | 32万円 | 6.3% |
1000万円 | 128万円 | 12.8% |
2000万円 | 505万円 | 25.2% |
3000万円 | 941万円 | 31.4% |
5000万円 | 1861万円 | 37.2% |
1億円 | 4291万円 | 42.9% |
所得税と住民税の配当控除は、1000万円を境に半分に縮小するので、1回の配当額は1000万円以下にするのが得策のようです。
なお、資本金の額にかかわらず、純資産が300万円を下回るような通常の配当は、利益剰余金の範囲であってもできません。
資本金が300万円を下回る法人は、残りの利益剰余金について、役員退職金、若しくは清算配当で処理します。
役員退職金の税金
前述の通り、退職金に係る税金は分離課税で、退職所得は通常の半分で計算される為、かなりお得です。
退職所得の具体的な計算式は、以下となります。
- 退職所得=(退職金 ー 退職所得控除)× 1/2
この退職所得に対して、通常の所得税・住民税の税率を掛けて計算します。
なお、退職所得控除とは、勤続年数に応じて計算される以下の金額です。
勤続年数 | 計算式 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 70万円 ×(勤続年数ー20年)+ 800万円 |
つまり、勤続20年であれば、退職金800万円までは税金が掛かりません。
また、退職金に係る税金は分離課税で、会社が源泉徴収する事で課税関係が終了しますので、他に収入がある場合でも、総合課税の適用を受ける事はありません。
勤続20年の場合における、退職金の税金と平均税率は以下の様になります。
退職金 | 所得税+住民税 | 平均税率 |
1000万円 | 15万円 | 1.5% |
2000万円 | 134万円 | 6.9% |
3000万円 | 319万円 | 10.6% |
4000万円 | 534万円 | 13.4% |
5000万円 | 770万円 | 15.4% |
1億円 | 2050万円 | 20.5% |
2億円 | 4800万円 | 24.0% |
配当金の平均税率は、1000万円の時12.8%でしたから、退職金だと4000万円付近でこの水準を超える事がわかります。
なお、役員退職金とぶつける事ができる保険収入等があれば、法人での節税効果が見込まれますが、今回は既に積み上がっている利益剰余金をどうすべきかなので、この部分の検討は省いています。
どのように組み合わせるか
さて、両者の計算結果が出そろった所で、いよいよ本題です。
シミュレーションに当たり、以下の様な前提を置きます。
- 利益剰余金 5000万円
- 勤続年数 20年
- 他の収入状況 なし
清算年度に全て処理
特にタックスプラン(納税計画)を置かず、清算年度に利益剰余金5000万円を全て、配当金と退職金で処理する場合の、個人における税金を考えてみます。
配当金、退職金に係る税金合計と平均税率は以下の様になります。
配当金 | 退職金 | 税金合計 | 平均税率 |
0円 | 5000万円 | 770万円 | 15.4% |
1000万円 | 4000万円 | 663万円 | 13.3% |
2000万円 | 3000万円 | 824万円 | 16.5% |
3000万円 | 2000万円 | 1078万円 | 21.6% |
4000万円 | 1000万円 | 1392万円 | 27.8% |
5000万円 | 0円 | 1861万円 | 37.2% |
配当金1000万円、退職金4000万円の組み合わせの税金が一番安くなりました。
5年の猶予がある場合
タックスプランを置かないケースでは、課税関係が清算年度のみで終結する為、退職金を厚くする方が税金が安くなる事が分かりました。
では、清算まで時間の猶予があり、予めタックスプランを置いた場合はどうでしょうか?
経営の一線を退いて他の収入がない状態であれば、総合課税の適用を受ける配当金であっても、退職金より有利に個人にお金を移せるかもしれません。
ここでは、配当金を5年にわたって支給し、清算年度に退職金を支給する前提で税金を計算してみましょう。
5年にわたる配当金、最終年度における退職金の税金合計と平均税率は、以下の様になります。
配当金(5年分) | 退職金 | 税金合計 | 平均税率 |
0円 | 5000万円 | 770万円 | 15.4% |
1000万円 | 4000万円 | 585万円 | 11.7% |
2000万円 | 3000万円 | 442万円 | 8.8% |
3000万円 | 2000万円 | 370万円 | 7.4% |
4000万円 | 1000万円 | 428万円 | 8.6% |
5000万円 | 0円 | 641万円 | 12.8% |
配当金3000万円、退職金2000万円の組み合わせの税金が一番安くなりました。
前述の清算年度で全て処理するケースにおける最安の組み合わせと比較すると、税金が293万円も安くなります。
最後に
配当金と役員退職金は、税務上は全く異なる制度であり、単純な比較は難しいものです。
今回は、事前の節税対策をしていない場合の利益剰余金の処理にフォーカスし、他の収入がない事を前提にシミュレーションをしています。
通常は、セーフティ共済や生命保険などを活用して、役員退職金の費用処理を行う事が多いので、中小企業で配当金の支給を検討する事は稀かと思います。
また、オーナー経営者は賃貸収入をはじめとして他の収入があるケースが多く、総合課税の適用を受ける配当金は、その点でも使い勝手が悪い印象です。
色んな会社の税務顧問をしていて、配当金を出しているのを見るのは、本当に稀なケースです。
でも、状況次第では、配当金を組み合わせる事で大きな節税に繋がるという点が、今回のキモです。
節税効果を高める為には、いつ仕事を辞めるのかと、いつ会社をたたむかについて、おおよその目星を付けておくといいでしょう。