試験研究費の税額控除とは

2023年12月26日法人税

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試験研究費の税額控除とは、研究開発に係る法人税の優遇措置で、研究開発税制とも呼ばれます。

研究開発税制をざっくり言うと、試験研究費の1~30%を法人税から控除できますが、その控除額は法人税の45%が上限になります。

トヨタ自動車は、この制度だけで791億円の税額控除を受けているそうです。

また、資本金1億円以下の中小企業でも、1社平均で約500万円の税額控除を受けているとの統計もあります。

ただ、適用対象となる費用の範囲や、対象となる法人の要件が複雑なため、内容を整理したいと思います。

税額控除とは

税額控除とは、一般的な所得控除と違い、計算された結果の税金から直接控除できる制度です。

例えば、税率20%だとすると、所得控除100円は20円の減税にしかなりませんが、税額控除100円は、丸々100円の減税になります。

この税額控除には、法人税で定められている控除と、租税特別措置法で定められているものがあります。

法人税で定められているのは、所得税と法人税の二重課税の排除を目的としたがあり、例えば「外国税額控除」は、外国と日本での二重課税の排除が目的です。

これに対し、租税特別措置法で定められているのは、今回扱う試験研究費の他にも、中小企業投資促進税制など、特定の政策目的の為に規定されています。

これらの税額控除は、まず租税特別措置法によるものが先に控除され、次に法人税による控除が適用されます。

 

試験研究費とは

試験研究費とは、以下の3つに該当する費用です。

  • 製品の製造、又はサービス開発に関する試験研究の費用及び経費(材料費、人件費、減価償却費、光熱費等)
  • 他の者に委託して試験研究を行う場合の委託費
  • 技術研究組合法9条1項の規程によって賦課される費用

試験研究費は税制上の用語ですが、似た言葉として研究開発費があり、こちらは会計用語です。

研究開発費のうち、製品の品質改良や、製造工程の改善に関する費用は、試験研究費にはなりません。

一方、試験研究費には、試験研究に関する減価償却費や人件費の一部も含まれるので、両者の範囲は重複する部分が多いものの、一致はしません。

従って、税務申告の際は、通常使っている会計上の勘定科目と、税制上の試験研究費との対応表を作成しておく必要があります。

詳細は、経済産業省のパンフレットをご確認下さい。

 

対象となる法人

この制度全般の共通事項として、対象は青色申告法人である必要があります。

中小企業者等

試験研究費の税額控除制度の内、後述する中小企業技術基盤強化税制の適用を受ける事ができる対象法人は、中小企業者等です。

中小企業者等は租税特別措置法上のもので、法人税法上の中小法人等とは定義が異なります。

税制 呼び名 内容
法人税法 中小法人等
  1. 普通法人の内、資本金1億円以下
  2. 公益法人、協同組合、人格なき社団等

但し、大法人※の100%子会社を除く

租税特別措置法 中小企業者等
  1. 青色申告法人
  2. 資本金1億円以下
  3. 従業員1000人以下の個人事業主
  4. 農業協同組合等

但し、大規模法人※に1/2以上、又は複数の大規模法人※に2/3以上所有されている法人を除く

※ 大法人:資本金5億円以上 大規模法人:資本金1億円超

なお、上記の中小企業者等に該当しない場合でも、一般試験研究費と特別試験研究費の適用を受ける事は可能です。

地方税の特例措置

県民税・市民税といった地方税は、原則として税額控除前の法人税を課税標準としています。

但し、中小企業者等の試験研究費には特例措置が設けられており、税額控除後の法人税が課税標準になります。

中小企業は、法人税の税額控除において、一般の企業より優遇されていますが、地方税の計算においてもさらに優遇を受けているので、中小企業は税制面でかなり手厚い措置が取られていると言えるでしょう。

 

3つの税額控除

試験研究費の税額控除には、以下の3つの制度があります。

  1. 一般試験研究費の額に係る税額控除制度
  2. 特別試験研究費の額に係る税額控除制度
  3. 中小企業技術基盤強化税制

税額控除できる額は、以下の算式で求めます。

  • 税額控除額=試験研究費×控除割合

なお、以下は令和5年4月時点の内容ですが、税額控除額と控除限度額は適用する年度で変るため、最新の情報は、段落末尾のリンクから国税庁HPをご確認下さい。

一般試験研究費

この一般枠は、中小企業に限らず、全ての青色申告法人が適用を受ける事ができます。

なお、特別試験研究費との併用はできますが、中小企業技術基盤強化税制との併用はできません。

控除割合は、増減試験研究費割合に応じて、1%~14%まで変化します。

増減試験研究費とは、過去3ヵ年の試験研究費からの増減割合で、増加の割合が高いほど、控除割合も高くなります。

税額控除の上限は、法人税額の25%ですが、下記の場合は上限が上乗せされ、最大で上限35%になります。(下記の高い方を適用)

  • 増減試験研究費の割合に応じた増減:△5%~+5%
  • 試験研究費÷平均売上額(当年+過去3ヵ年)≧10%:0~+10%

設立10年以内等の一定の要件を満たすベンチャー企業は、更に15%の上乗せ措置があります。

一般試験研究費に係る最新の情報は、国税庁HPにてご確認下さい。

特別試験研究費

特別試験研究費は、オープンイノベーション型とも呼ばれ、研究機関・大学等との共同研究に要する費用の事です。

一般試験研究費、中小企業技術基盤強化税制のいずれも併用が可能です。

控除割合は、支出する相手により、以下の様に決められています。

  1. 国・大学等との共同研究:30%
  2. 研究開発型ベンチャー企業との共同研究・委託研究:25%
  3. 上記1・2以外の共同研究:20%

税額控除の上限は、他の制度とは別枠で10%です。

特別試験研究費に係る最新の情報は、国税庁HPにてご確認下さい。

中小企業技術基盤強化税制

この制度は、前述した中小企業者に該当する青色申告法人が利用できます。

なお、特別試験研究費との併用はできますが、一般試験研究費との併用はできません。

控除割合は、増減試験研究費割合に応じて、12%~17%まで変化します。

増減試験研究費とは、過去3ヵ年の試験研究費からの増減割合で、増加の割合が高いほど、控除割合も高くなります。

税額控除の上限は、法人税額の25%ですが、下記の場合は上限が上乗せされ、最大で上限35%になります。(下記の高い方を適用)

  • 増減試験研究費の割合が12%超:+10%
  • 試験研究費÷平均売上額(当年+過去3ヵ年)≧10%:0~+10%

中小企業技術基盤強化税制に係る最新の情報は、国税庁HPにてご確認下さい。

 

まとめ

制度の内容をまとめると、以下のようになります。

制度 併用 控除割合 控除の上限
一般試験研究費 中小とは不可 1~14% 25~35%※
特別試験研究費 20~30% 10%
中小企業技術基盤強化税制 一般とは不可 12~17% 25~35%※

※特別試験研究費と併用すれば、控除の上限は最大45%になります。

 

この制度は税額控除であるため、利益が大きく出ている場合は、納税額を大きく節約できる可能性がある反面、研究開発の為に赤字が続いている会社には、メリットがありません。

研究開発を積極的に行う会社は赤字である場合が多く、その研究成果が実を結ぶ将来において、やっと利益が出るイメージがあります。

ベンチャー企業で創業当初から利益を出す会社はあまりないと思うので、この制度を詳しく知るほど、何となくモヤモヤします。

確かに中小企業やベンチャー企業を制度面で優遇してはいますが、メインの狙いは、利益が潤沢な大きな会社に、開発投資を促しているのだと思います。