遺産分割協議書の内容、作成上の留意点
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遺産分割協議書とは、相続人全員が参加し、遺産の分割について合意した内容を文書にしたものです。
この遺産分割協議書は、どのような場合に必要な文書なのでしょうか?
遺言書がない場合の相続税申告、財産の名義変更や登記申請、また被相続人名義の預金を引き出す際にも、この遺産分割協議書の提示を求められるケースがあります。
今回は、この遺産分割協議書の内容や、作成の留意点について、解説します。
遺産分割協議書の内容
相続人が複数いて、かつ遺言書がない場合、誰がどの財産を相続するのか、相続人同士で話し合わなければなりません。
この遺産分割の協議は、法律上は口頭のみで成立しますが、その裏付けがないと、後で言った言わないで揉める「争続」にもなりかねません。
そこで、協議で合意した内容を記録する、遺産分割協議書を作成する事になります。
文書の形式
この遺産分割協議書の形式は、特に決まったフォーマットはありませんが、誰がどの財産を相続するのかを細かく記載します。
不動産であれば、登記簿の記載どおり、土地は筆毎、建物は棟毎に、未登記の物件があれば、それも漏れなく記載します。
また、被相続人の氏名・死亡日、相続人が遺産分割内容に合意している旨、相続人全員の住所・氏名、合意した日付などを併せて記載します。
協議は相続人全員が参加するのが原則ですが、遠方の親類等は、電話などで意思を確認します。
協議が整い、内容が確定した場合は、作成された文書に相続人全員の署名と実印を押印します。
また、文書と全員の印鑑証明書をセットとして、相続人全員が同じものを持ちます。
なお、相続人が未成年の場合は、法定代理人を立てる必要があるので、代理人の署名、実印、印鑑証明書が必要です。
この内容について、後から訂正が生じる場合は、また全員の署名・押印からやり直すか、訂正箇所に全員の訂正印が必要になります。
このため、預金等は利息が付いて残高に変動が生じていないか、不動産の地番と住居表示の違いなど、内容の確定は慎重に行います。
遺言書がある場合の遺産分割
遺言書がある場合は、その内容に沿って遺産を分割するのが原則なので、遺産分割協議書の作成は不要です。
但し、遺言書に記載のない財産が発見された場合はどうでしょうか?
実は、亡くなられた方が認識していない、若しくは単に忘れてしまっている財産は、意外と多いものです。
この場合、揉め事を回避する観点から、やはり遺産分割協議書を作成するのが望ましいと言えます。
また、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容とは異なる割合で分割する事もできるので、その場合は遺産分割協議書の作成が必要になります。
遺産分割協議書が不要なケース
遺産分割協議書が不要なケースは、以下の4つになります。
- 遺言書があり、その内容に沿って遺産分割する
- 相続人が1人のみ
- 遺産が現金・預金のみ
- 法定相続割合で遺産分割する
但し、上記3や4であっても、以下の場合は遺産分割協議書が必要になります。
- 預金の凍結解除
- 不動産の相続登記
- 査定額100万円以上の普通自動車の名義変更
- 相続税の申告で、特例や控除の適用を受ける
- 相続人同士のトラブルを回避したい
上記のように、遺産分割協議書は、様々な手続に証明書として使え、トラブル回避にも有効と言えます。
申告期限との関係
相続税の申告期限は、「被相続人が死亡した事を知った日の翌日から10ヶ月以内」と決められています。
相続税の計算などは、専門家に依頼すればスムーズに進むものですが、遺産の全体を把握する事や、その遺産をどうやって相続人で分けるかの調整については、簡単にいかないケースもあります。
遺産が自宅や現金のみといったシンプルなケースでは、全体の把握にそれほど時間はかからないと思います。
また、不動産を多数所有していたり、非上場株の評価が含まれる場合は、全体の把握に時間はかかるとしても、通常は申告期限に収まるはずです。
ただ、遺産の分割となると、厄介です。
相続人が配偶者と子のみ、といった一般的なパターンであれば、揉める要素は少ないかも知れませんが、遺産の中に、換金や評価が難しい資産が含まれている場合は、親しい家族の間であっても、争いが起きるかも知れません。
加えて、遺書が法定相続人の遺留分を侵害する内容だったり、家族が知らない新たな相続人が現れたりすれば、遺産分割の協議が難航するのは容易に想像できます。
しかし、税務署はこうした個別の事情や争いを考慮してくれません。
遺産の分割が済んでなくても、申告期限が延長される事はなく、期限後の申告には、延滞税や無申告加算税が課されます。
申告後の遺産分割
以下のような状況にあって、申告期限に間に合わない場合は、とりあえず相続税の申告を先行して行い、申告後に遺産分割を行う事になります。
- 遺産分割協議がまとまらない。
- 新たな相続人が現れた
- 新たな遺産が見つかった
- あとから遺言書が発見された
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停委員会が加わる遺産分割調停を行います。
それでも合意できない場合は、家庭裁判所が遺産分割を決める遺産分割審判を受ける事になります。
なお、申告後に遺産分割を行った場合、相続税の計算をやり直す事になります。
その結果、1回目の申告よりも、計算される相続税が多い、若しくは少ない場合、下記のような手続が必要になる場合があります。
- 多い場合 ⇒ 修正申告書を提出し、差額の相続税を納める
- 少ない場合 ⇒ 更正の請求を提出し、差額の還付を受ける
申告期限を過ぎた場合
上記のように、遺産分割が整わなくても、申告のみ先行して行えば問題ありませんが、申告期限の10ヶ月迄に申告を行わない場合、次のようなデメリットがあります。
- 小規模宅地の特例が受けられない
- 配偶者の税額軽減が受けられない
- 非上場株式の納税猶予の特例(いわゆる事業承継税制)が受けられない
- 農地の納税猶予の特例が受けられない
- 物納できなくなる
1と2については、「分割見込書」を添付して申告しておく事で、申告期限から3年以内に遺産分割協議がまとまった場合、遡って特例の適用を受けることができます。
この場合、遺産分割が完了して4ヶ月以内に更正の請求を行えば、納め過ぎた相続税が還付されます。
なお、3年経過しても遺産分割ができない場合、やむを得ない事由があれば、特例の適用をさらに延長する事が可能です。
やむを得ない事情とは、遺産分割に係る裁判が行われている場合や、遺言で一定期間の遺産分割が禁じられている場合などです。
この場合、申告期限後3年の日から2ヶ月以内に税務署へ申請し、承認を受ける事によって、やむを得ない事情が解消されるまで、特例の適用を延長する事ができます。
最後に
いかがだったでしょうか。
遺産分割は、相続における大きな難所と言えるかもしれません。
争いを避けるには、遺言書がある事が一番ですが、遺言書があれば全て安心という訳でもない点が悩ましいところです。
遺産分割協議書は誰でも作成できますが、限られた時間の中で、内容にも正確性が要求されるので、専門家へ相談される事をお勧めします。