会社設立後にやること
⏱この記事は 7 分で読めます。
前回までの記事で、合同会社、株式会社の設立方法、両者の比較などを書いてきました。
法務局に必要書類一式を提出して、約1週間経つと、会社の謄本が取れるようになります。
なので、設立日の段階では、実は何もスタートしていないんですね。
法務局の書記官の前に、書類が積まれているだけです。
謄本が取れるようになってからが、本当のスタートになります。
やることリスト
ひとり社長の会社設立で、必要な手続きは、以下の通りです。
いつ? | どこで? | |
銀行口座開設 | すぐに | 金融機関 |
税務署手続き | 15日~3ヶ月 | 税務署 |
社会保険加入 | 報酬設定時 | 年金事務所 |
社内規程作成 | 落ち着いたら | 自分で |
なお、自分以外の人を雇用する場合は、上記に加えて労働基準監督署宛に、労働保険関係成立届を提出して、労働保険に加入する手続きが必要です。
銀行口座開設
事業のオサイフが個人と別物であることを主張するには、設立した会社名義の銀行口座が不可欠です。
法人口座ができるまでの期間、及び取引先への口座切替えが周知されるまでしばらくの期間なら、個人口座の立替えでも構いません。
しかし、法人口座を開設せずに、ずっと個人の口座を代用していると、個人のオサイフと区別がつかないことを理由に、税務調査で費用計上が否認される原因になります。
そもそも、お金の管理が大変になるだけです。
また、今どき現金オンリーの商売というのもないでしょう。マネロンを疑われます。
以上のことから、謄本が取れるようになって、いの一番にやるべきことは、銀行口座開設ということになります。
では、どんな銀行に口座開設を申し込めばいいのでしょうか?
ネット銀行
ネット専業銀行はいろいろありますが、法人用口座なら、楽天銀行、住信SBIネット銀行、ペイペイ銀行の3行が有名です。
特に体裁を気にしないならば、ネット銀行はお勧めです。法人なら月額2千円前後するネットバンキング契約手数料が、無料です。加えて、振込手数料は、他の金融機関と比べても安いです。
口座開設は、基本的にはネット手続きだけで完結しますし、いちいち記帳せず、リアルタイムで残高が把握でき、スマホなどからも振込みできる利便性は、圧倒的です。
デメリットがあるとすれば、公庫の返済用口座や社会保険料の引落口座として、ネット銀行は対応していない場合が多いことです。(今後使えるようになるかもしれません)
メガバンク
財閥系3行など、大企業相手の金融機関は、何の紹介もなく窓口へ行くと、色々と質問されたあげく、やんわりお断りされるケースもあったと聞きます。
今は、創業する人を積極的に取り込もうとしているので、昔のような敷居の高さは、あまりないと聞きます。
メガバンクに預金口座があるだけで、なんとなく箔が付きますから、商売にそうした要素が必要なら、口座開設をトライする価値はあるでしょう。
地元地銀・信金
地元系金融機関のよいところは、敷居の低さです。
口座開設時に、どんな事業をやる会社なのか、最低限の説明は必要になりますが、いきなり窓口に行ったとしても、お断りされることはないと思います。
メガバンクにはないメリットとして、地域に密着した制度融資の利用ができる点だと思います。
制度融資というのは、低利かつ少額の融資制度で、創業間もない会社が申し込めるものもあります。
これには、都道府県単位のものに加え、市区町村単位もあり、後者はメガバンクが扱っていないケースがあります。
創業後、一定の運転資金の調達を考えている場合は、メガバンク一行に加えて、地元系金融機関一行の口座開設をするといいと思います。
ゆうちょ銀行
意外と穴場なのが、ゆうちょ銀行です。
ゆうちょ銀行同士なら、月5回まで振込手数料が無料なので、遠隔地と頻繁にお金のやり取りがあるなら、メリットがあります。
ただ、口座開設には審査があり、10営業日前後かかります。
※審査そのものは緩かったのですが、最近、急に厳しくなったとの情報もあります。
また、通常貯金(=普通預金)には、1,300万円の預入限度額があり、大金が動く取引には使えません。
あくまでも補助的に開設する対象として、検討するのがいいでしょう。
まとめ
結局、展開するビジネスの在り方によって、選ぶ金融機関のメリデメは違ってきます。
お金の出入りが頻繁で、リアルタイムで残高確認が必要である一方、いわゆる「箔」みたいなものが必要なければネット銀行の一択になります。
しかし、社会保険料や公庫の返済用預金口座に指定できない銀行もあるのが難点です。
ネット銀行をメインに、地場系金融機関を補助的に開設するのが、起業したての会社では最もフィットする組み合わせです。
因みに、海外送金は金融機関を利用せず、海外送金サービス専用のトランスファーワイズがお勧めです。金融機関より安いコストで送金できます。
税務署手続き
法人設立届出書
新しい法人が設立されたことを、税務署、県税事務所、市町村の3か所に届ける必要があります。(東京都の場合は、税務署と都税事務所の2か所です)
提出期限は、会社設立後2ヶ月以内です。(東京都の場合は、設立後15日以内です)
必要書類は、定款コピー、謄本コピーです。
郵送で提出する際は、役所毎に送ってもいいのですが、税務署宛に、県税事務所、市町村宛の分もまとめて送ると、税務署が他の2機関に書類を回付してくれることになっています。
その場合、添付する資料と返送用の控えは、それぞれの機関宛の3通を同封しましょう。
また、電子申請する方法もあります。
青色申告の承認申請書
青色申告の承認を受けておくと、欠損金を10年間にわたって繰り延べできたり、当年度が赤字だと前年度分の納税額から還付を受けれるようになります。
その他にも、特別償却・控除といった、主に減価償却のやり方で、優遇措置が受けられます。
個人と同じく複式簿記での記帳が要件になりますが、どのみちバランスシートを作成するには複式簿記が必要になるので、青色申告の承認を受けるのに、デメリットらしいものはありません。
提出期限は、会社設立から3ヶ月以内です。
その他
以下は、必要に応じて提出することになります。
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
- 棚卸資産の評価方法の届出書
- 減価償却資産の償却方法の届出書
- 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
1の書類については、設立当初から役員報酬を支払う場合、提出が必要になります。提出期限は設立後1ヶ月以内です。
2の書類については、毎月納める必要のある源泉税を、毎年1月・7月の年2回の納付に軽減してもらえますので、1を提出する場合は、同時に提出するといいでしょう。給与支給対象が常時10名未満なら、この特典が活かせます。
3~5の書類は、会社設立当初から対象となるケースはあまりないと思います。提出期限も初年度の申告期限までとされているので、急いで対応する必要はありません。
社会保険加入
対象となるケース
サラリーマンの方が、副業で会社設立する場合、勤めている会社の健康保険、厚生年金に加入しているのが普通だと思いますので、この手続きは不要です。
ただ、ひとり社長の会社でも、自分に役員報酬を払う場合、社会保険の加入が義務化されています。
私が会社を設立した当初、役員報酬を取っていなかったので、年金事務所からの問い合わせに対しても、無報酬である旨を説明して、それでOKになっていました。
役員報酬を支払う事にしたのは、当時加入していた国民健康保険の料率が高く、何とかならないか、ネットで検索したことがきっかけです。
加入できる保険団体
役員報酬を低く設定すれば、全国健康保険協会(協会健保と言います)の健康保険料は、国民健康保険と比べて安いです。
大企業には、会社毎、グループ毎に独自の健康保険組合がありますが、協会健保は、どの中小企業でも加入できます。
協会健保以外にも、業界毎に中小企業、フリーランスが加入できる色んな健康保険組合が存在しています。
料率が全国健保より低かったり、固定額だったりしますので、比較検討されるといいでしょう。但し、加入には条件があります。
なお、協会健保の健康保険料率は、月額報酬に比例するので、月額報酬を60万円以上とかに設定してしまうと、料率面でのメリットはありません。
因みに、厚生年金保険料は、報酬が低い場合、国民年金と変わりませんが、これも報酬に比例しますので、報酬が高いと納める年金料も高くなります。
ただ、将来もらえる年金額も増えます。(納めた額に正比例はしません)
加入手続きの期限
社会保険の加入手続きは、設立後5日以内にすることになっています。
設立後5日以内といっても、まだ謄本も取れない時期なので、実際には、謄本が取れるようになってから、なるべく早くという意味だと思います。
役員報酬は、やたら変えると税務上の損金計上が否認されたりしますが、下記の場合の変更はできます。
- 会社設立以降、最初の支払い
- 増額の場合は、事業年度開始から3ヶ月以内(1回のみ)
- 減額の場合は、経営状況の悪化、かつ第三者との関係上やむを得ない場合
なので、当面は役員報酬をゼロにして、年度の途中で役員報酬を設定し、社会保険に加入する方法も取れます。
社内規程作成
ひとり社長の会社でも、社内規程を作っておけば、税務上のメリットを享受できるかもしれません。
そもそも一人しかいない会社で規程を作るなんて、何とも気の抜けた話ですが、税務調査に入られて慌てるよりも、事前に作成して、他の重要書類と一緒にクリアフォルダーに入れて保存しておきましょう。
私が作った社内規程は、旅費規程です。内容は以下の3点です。
- 交通費、食事代、宿泊料
- 日当
- 社有自動車の利用
交通費などの旅費は、法人の口座を経由せず、個人が立て替えるのが通常ですので、この点を規程で明確にしておきます。役員がグリーン車やビジネスクラスの利用ができる旨を定めておけば、その費用を経費にできます。
日当は、出張の際、会社から個人に支給することを定めておきます。相場は1日当り4千円前後です。あまり高いと否認されます。また日当は、受け取った個人は自分の所得に含める必要がないので、税務上とてもお得です。
車の所有者を会社にしておくと、車検代などの維持費が会社の経費にできます。どの範囲までを会社の経費にするか、予め規程で定めておく必要があります。
その他、従業員を10名以上雇用する場合は、就業規則を作成する必要があったり、組織の規模が大きくなればそれなりに規程類も増えますが、ひとり社長の会社設立にあっては、当分必要ないと思われます。
いかがだったでしょうか。
設立時って、意外とやることが沢山ありますね。
自分の会社ができると、個人事業主から次のステップに進めたように感じますし、仕事にも張りが出ますので、事業がある程度順調に回りはじめたら、早い段階での会社設立をお勧めします。