証券投資における課税方式と損益通算

2024年2月1日個人税制,制度改正

今回は、証券投資における課税方式と損益通算についてです。

証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を選択すれば、税金の計算と納付を証券会社がやってくれますので、仕事が忙しい現役世代にとっては、この上なく使い勝手のいい制度だと言えます。

ただ、この口座は申告不要であるものの、申告した方が有利(≒税金の還付がある)ならば、自分で確定申告する事ができる点がミソです。

では、どのようなケースだと、申告した方が有利になるのでしょうか?

それには、証券投資の課税方式と損益通算について知っておく必要があります。

 

課税方式

課税方式は、無申告(源泉分離課税)、申告分離課税、総合課税の3つの方式の違いについて、ポイントを押さえておきましょう。

無申告(源泉分離課税)

申告不要である点を指して「無申告」としていますが、配当所得(分配金・利金含む)は源泉徴収の対象なので、正確には源泉分離課税と呼ぶ事が多いです。

この場合、無申告を選んでも税金の納付は既に終わっているので、「申告不要」という意味の無申告になります。

一方、譲渡所得については、特定口座(源泉徴収あり)は源泉徴収されていますが、一般口座と特定口座(源泉徴収無し)は源泉徴収されていません。

他の副収入等も合わせて年間20万円以下であれば申告不要制度がありますので、この制度の適用を受ける場合は「税金が無い」という意味の無申告になります。

申告分離課税

申告分離課税の税率は、上場会社株式であれば定率の20.315%で、これは無申告の源泉分離課税と同じ税率です。

配当所得は総合課税も選べますが、譲渡損益は選べないので、申告する場合は申告分離課税となります。

特定口座(源泉徴収あり)は、以前は配当と譲渡損失の損益通算ができませんでしたが、税制改正によって可能になった為、既に徴収された税金があっても、還付があれば証券会社から自動的に振り込まれます。

しかし、大きな譲渡損失が出て、その年の配当収入等だけでは損失を相殺しきれない場合は、譲渡損失を翌年以降3年間にわたって繰り越す事ができますが、この場合は確定申告をする必要があります。

この時に選択できるのは、申告分離課税のみです。

総合課税

総合課税の税率は、他の所得と合算した上で、合計総所得額に対して所得税の税率を掛けて計算します。

所得税は累進課税で5~45%、住民税は定率の10%です。

合計所得が700万円ぐらいまでなら総合課税でも大丈夫ですが、所得が上がるほど率が上昇し、所得1800万円を超えると50%(住民税含む)にも達します。

但し、他の所得と異なり、配当所得には配当控除という制度があり、以下の税率で計算された額を、税金から控除する事ができます。(カッコは住民税)

合計所得 配当所得 証券投信 外貨建投信
1000万円以下 10%(2.8%) 5%(1.4%) 2.5%(0.7%)
1000万円超の部分 5%(1.4%) 2.5%(0.7%) 1.25%(0.35%)

なお、国内に上場するETFは、国内株式を対象としていれば配当所得と同じ配当控除を受けられます。

しかし、海外株式を対象とした国内ETFや、海外に上場するETFについては、配当控除を受ける事ができません。

 

損益通算

損益通算は、個人の税金を考える上で、欠かせない要素です。

文字通り、損と益を通算できる為、一時的に投資で損失を被ったとしても、他の所得とぶつける事で、納税額を少なくする効果を得られます。

代表的な例で言えば、不動産投資の損失を給与所得と通算する事で、給与から源泉徴収された所得税の一部を取り戻す事ができます。

ただ、なんでもかんでも損益通算ができる訳ではなく、証券投資においては、やや複雑なルールが存在します。

簡単に言えば、損益通算できる仲間が決まっており、その仲間同士でしか損益通算する事ができないので、残念ながら、給与所得との損益通算はできません。

損益通算できるグループは、以下のようになります。

グループ 損益通算の対象 課税方式 損失繰越制度
上場 上場株・投信(配当・譲渡)
特定公社債(利子・譲渡)
申告分離 翌年以降3年
一般 一般公社債(譲渡のみ)
非上場株式(譲渡のみ)
申告分離
先物取引 先物・オプション取引
国内FX
申告分離 翌年以降3年
雑所得 海外FX
暗号資産
総合課税
(雑所得)

総合課税を選択した場合の配当所得、及び雑所得は、マイナスの場合は他の総合課税のプラスと通算する事はできません。

一方、プラスを他の総合課税のマイナス(例えば不動産所得や事業所得の赤字)と通算する事は可能です。

 

課税方式の統一

所得税については、無申告(源泉分離課税)、申告分離課税、総合課税の3つの課税方式がある事がわかりました。

さて、ここからは少し細かくなりますが、住民税の申告方式です。

税務署(国税)に確定申告を行うと、そのデータは自動的に都道府県と市町村に送られるため、通常は住民税の申告を単独で行う事は稀です。

しかし、住民税は所得税(国税)とは独立した税制であり、住民税においても、無申告、申告分離課税、総合課税という制度があります。

以前は、配当所得について、所得税と住民税で異なる課税方式を選択する事が可能だった為、所得税で総合課税を選択しても、住民税単体では有利な無申告、又は申告分離課税を選ぶ事ができました。

2023年(令和5年)分の確定申告からは、この点が改正され、所得税と住民税の課税方式を一致させる事になりました。

総合課税の場合、住民税の税率は7.2%(配当控除2.8%控除後、合計所得1000万円以下の場合)で、無申告や申告分離課税の5%より常に不利になります。

従って、無申告・申告分離課税と総合課税の有利不利は、住民税と合算した税金で比較する必要があります。

また、確定申告すると配当所得は合計所得に足されてしまうので、国民健康保険に加入している場合は、翌年の保険料が増える事にもなります。

 

まとめ

以上の事を踏まえ、投資対象毎に源泉徴収の有無、3つの課税方式、損益通算についてまとめると、以下のようになります。

対象 源泉徴収 申告方式 損益通算
無申告 申告分離 総合
上場株投信配当 あり
3年繰越
 〃   譲渡 選択可 ×
特定公社債利子 あり ×
 〃   譲渡 選択可 ×
一般公社債利子 あり × × ×
譲渡○
 〃   譲渡 × ×
非上場株配当 あり 10万超× ×
 〃  譲渡 × ×
先物
オプション取引
国内FX
20万超× ×
3年繰越
海外FX
暗号資産
× 雑所得内○
海外預金利息 × ×
国内 〃 あり × ×

全体を俯瞰して見ると、総合課税を選択できるのは上場株投信・非上場株の配当所得と、暗号資産等である事がわかります。

収入が少なくなった時に備えて、総合課税が選べる投資対象を検討しておくといいかも知れません。

 

最後に

今回扱ったテーマは、現役のサラリーマンにはあまり関係がなく、退職後の人生設計を考える上では、役に立つと思います。

特に、申告分離課税か総合課税かは、確定申告をした経験のない方であれば、あまり関わりたくない論点かも知れません。

でも、人生100年時代。

年金暮らしが始まったら、節税のつもりでした手続で、思わぬ社会保険料の増加に見舞われるかもしれません。

自分に関係ありそうなポイントを押さえて、有利な選択をしていきましょう。