相続税の申告要否と計算手順

2023年12月6日相続税・贈与税

相続税法はたびたび改正されていますが、今の基礎控除が 3000万円+(600万円×人数) になったのは、2015年施行の改正です。

それまでは、5000万円+(1000万円×人数) でした。

その為、法定相続人1人の場合で見れば、基礎控除額が6000万円から一気に3600万円に下がったので、この改正によって相続税の要申告者が大きく増えました。

ただ、大きく増えたと言っても、要申告の相続は、依然として全体の8%に過ぎないという統計もあります。

つまり、残りの92%は、相続財産が基礎控除額を下回るため、申告自体が不要という事です。

そもそも申告が必要なのか、申告する場合はその計算手順はどうなるのか。

今回は、相続税の申告要否と計算手順について、解説していきます。

相続税の申告要否

相続税の計算手順に入る前に、まず申告要否を整理します。

ざっくり言えば、相続財産の合計が、基礎控除額を下回れば申告は不要です。

基礎控除額は、以下の算式で求めます。

  • 3000万円 + (600万円×法定相続人の数)

ここで問題になるのは、申告要否の判断材料となる「相続財産の合計」です。

相続財産が預金と自宅のみであれば、両者を合計して終わりですが、住宅ローンの残債や生命保険の非課税枠はどのように扱ったらいいのでしょうか?

また、相続財産の合計が基礎控除額を上回ったとしても、特例や控除を適用すれば、結果として納める相続税がゼロという事もあります。

この場合、納付額がゼロだからと言って、申告が不要とはなりません。

この辺りはややこしいので、いったん整理しましょう。

相続財産の合計

まず、申告要否の判断材料となる「相続財産の合計」は、以下のように求めます。

  • +  相続財産(墓地・墓石等を除く)
  • +  贈与財産(暦年課税7年+相続時精算課税)
  • △ 生命保険・死亡退職金の非課税枠
  • △ 債務(住宅ローン・葬儀費用等)

申告が不要なケース

具体的な例で見ていきましょう。

  • 相続人 配偶者+子2人(基礎控除4800万円)
  • 預金3000万円、生命保険3000万円
  • 生命保険の非課税枠1500万円

この場合の相続財産の合計は、以下のようになります。

  • 相続財産6000万円ー生命保険の非課税枠1500万円=4500万円

相続財産の合計4500万円 < 基礎控除額4800万円となるので、申告は不要です。

申告が必要なケース

  • 相続人 配偶者+子2人(基礎控除4800万円)
  • 預金3000万円、自宅3000万円
  • 小規模宅地等の特例による減額1500万円

この場合は、特例による減額は考慮しないので、相続財産の合計は6000万円になります。

相続財産の合計6000万円 > 基礎控除額4800万円となるので、申告が必要です。

しかし、この場合の課税価格は4500万円になるので、計算される相続税はゼロになります。

つまり、この場合の申告は、納税の為ではなく、特例の適用を受けるために行うと言えます。

同様に、配偶者控除などの税額控除を受ける際も、申告が必要になります。

なお、小規模宅地の特例については、以下のブログ記事もご参照下さい。

小規模宅地等の特例とは

 

相続税の計算手順

課税価格の計算

まず、遺産総額から非課税財産や債務を控除して、正味課税遺産額を求めます。

非課税財産等とは、以下のものが含まれます。

  • 生命保険や死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
  • 墓地、墓石、仏壇、仏具等、日常礼拝しているもの
  • 小規模宅地等の特例など、課税価格の減額分

債務等とは、以下のものが含まれます。

  • 借入金、入院費用等の債務
  • 主たる債務者が弁済不能な保証債務(原則は控除不可)
  • 葬儀費用
  • 準確定申告に係る所得税、未納税金等(被相続人の責めによらない延滞税等は除く)

次に、正味課税遺産額に以下のものを加算して、課税価格を求めます。

  • 相続時精算課税制度に係る贈与財産
  • 暦年課税に係る相続開始前7年以内(2024年改正前は3年以内)の贈与財産

相続税総額の計算

上記で計算された相続税の課税価格をベースとして、相続税総額を計算します。

まず、以下の計算式で、基礎控除額を求めます。

  • 3000万円 + (600万円×法定相続人の数)

この基礎控除額を課税価格から控除して、課税遺産総額を求めます。

次に、この課税遺産総額を法定相続分で按分したと仮定して、法定相続人それぞれの税額を算出し、それらを合算した相続税総額を求めます。

相続税の計算に用いる税率は、以下のようになります。

法定相続分に応じた金額 相続税率 控除額
~1000万円 10%
~3000万円 15% 50万円
~5000万円 20% 200万円
~1億円 30% 700万円
~2億円 40% 1700万円
~3億円 45% 2700万円
~6億円 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円

納付税額の計算

上記で計算された相続税総額を、今度は遺言書、若しくは遺産分割協議書の内容に沿った、実際の相続割合で按分します。

この時、各人の相続税負担割合は、以下のような算式で求めます。

  • 各人の相続税負担割合=各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額

つまり、割合計算においては、各人が相続する財産のうち、生命保険の非課税枠や小規模宅地等の特例減額分はカウントせず、加算対象の贈与財産はカウントする必要があるという事です。

相続人の各人において、適用できる控除がある場合は、税額を控除する事ができます。

  • 配偶者控除(法定相続分、又は1億6千万円のいずれか大きい金額迄)
  • 未成者控除(18歳に達する迄の年数×10万円)
  • 障害者控除(85歳に達する迄の年数×10万円)
  • 贈与税額控除(課税価格に算入した贈与財産で、既に納付した贈与税額)

なお、相続税負担割合の計算結果において、小数点以下2位未満の端数は、割合の合計が1になるよう調整可能なので、控除の適用が可能な相続人に、恣意的に端数を寄せる事も可能です。

 

具体的な計算例

以上が相続税の計算方法ですが、聞きなれない用語が連続するので、分かりにくいですね。

具体的な例を用いて、実際の計算をしてみます。

前提として、以下のような例を考えます。

  • 遺産総額 1億3000万円(預金7000万円、自宅6000万円)
  • 非課税財産 小規模宅地の特例減額分4000万円
  • 債務等 1000万円(住宅ローン800万円、葬儀費用200万円)
  • 生前贈与 相続時精算課税制度で2000万円
  • 相続人 配偶者+子2人(基礎控除4800万円)
  • 遺産分割 法定相続割合(配偶者1/2・子1/4)

計算手順に従って、納付税額を求めます。

  • 正味課税遺産額=1億3000万円-非課税4000万円-債務1000万円=8000万円
  • 課税価格=正味課税遺産額8000万円+贈与財産2000万円=1億円
  • 課税遺産総額=課税価格1億円-基礎控除4800万円=5200万円
  • 法定相続分で按分 配偶者2600万円・子1300万円×2
  • 各人の相続税額を計算 配偶者340万円・子145万円×2、合計630万円
  • 各人の納付税額を実際の相続割合で按分 配偶者315万円・子157.5万円×2
  • 配偶者控除適用後の納付税額合計 子157.5万円×2=315万円

上記の前提条件の場合、納付税額の合計は、315万円と計算されました。

配偶者控除の適用を受けるため、配偶者の納税額はゼロ。2人の子がそれぞれ157.5万円を納めます。

 

相続税額の早見表

各相続人が法定相続分で遺産を分割すると仮定した場合における、相続税額の早見表になります。(単位:万円)

課税価格 配偶者あり 配偶者なし
子1人 子2人 子1人 子2人
5千万円 40 10 160 80
6千万円 90 60 310 180
7千万円 160 113 480 320
8千万円 235 175 680 470
9千万円 310 240 920 620
1億円 385 315 1220 770
2億円 1670 1350 4860 3340
3億円 3460 2860 9180 6920

 

最後に

このように、相続税の計算手順は複雑です。

特に、課税価格から相続税額を求める段階で、いったん法定相続分で按分して各人の相続税額を計算しますが、これはあくまでも仮定計算であって、実際の各人の納税額は、遺産分割後の割合で再び配分し直す点がわかりにくいと思います。

こうした複雑な計算手順を経るため、配偶者の有無や、各人が使える控除によって、実際の納税額は大きく変動します。

相続財産の総額ばかりではなく、相続人の状況に応じて、相続税額がどの程度の金額になるか、事前にシミュレーションしておくといいと思います。