小規模宅地等の特例とは
都会にある自宅などは、土地の評価が高いため、相続税の負担も相応に発生する事になります。
相続が発生した際に、自宅以外の主だった資産がない場合、相続税を延納するか、自宅を物納するか、売却するか、選択を迫られる事になります。
延納は納税の先送りに過ぎませんし、物納は一定の要件を満たす必要があるので、必ず選択できるものではありません。
そうすると、自宅の一部、若しくは全部を売却せざるを得ない事態が発生する事になります。
こうした相続人の居住権に配慮する為、1983年に創設されたのが小規模宅地等の特例で、何度か改正を経て、現在に至っています。
この特例の適用を受ける事によって、相続税計算上の土地評価額が、最大で80%減額されるので、相続税の負担を大幅に減らすことができます。
今回は、この小規模宅地等の特例の内容について、詳しく見ていきます。
特例の対象となる土地
特例の対象となる土地は、以下の4つです。国税庁のHPはこちら
- 特定居住用宅地等
- 特定事業用宅地等
- 特定同族会社事業用宅地等
- 貸付事業用宅地等
それぞれについて、内容を見ていきます。
特定居住用宅地等
被相続人の自宅敷地となる土地を「特定居住用宅地」と呼び、330㎡までの面積について、80%の評価減を受けられます。
対象となる土地は、330㎡以内である必要はなく、例えば500㎡の土地であれば、うち330㎡が適用の対象、残り170㎡は適用の対象外になります。(他の特例においても同様)
土地を取得する相続人については、以下の要件が定められています。
土地を取得する人 | 要件 |
被相続人の配偶者 |
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被相続人と同居していた親族 |
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上記以外の親族 |
|
家なき子については細かい要件が定められていますが、特例を適用するのは、親族なのに持ち家がないなど、特別の場合に限る趣旨のようです。
二世帯住宅に特例を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
- ひとつの建物に親子が住んでいる事
- 建物の敷地の名義が親であり、子は親に家賃を払っていない事
建物の敷地について、世帯毎に区分所有権の登記がされている場合、子の居住用部分には特例を適用する事はできないので、注意が必要です。
被相続人が老人ホーム等に入所していた場合は、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人が要介護認定、若しくは要支援認定を受け、老人ホーム等の一定の施設に入居していた
- 老人ホーム等の一定の施設が「老人福祉法等に規程する老人ホーム」である
- 老人ホームに入居後、自宅を賃貸や事業で使用していない
特定事業用宅地等
被相続人の個人事業(貸付用を除く)として使っていた土地を、特定事業用宅地等と呼び、400㎡までの面積に対し、80%の評価減が受けられます。
特定事業用宅地等の適用を受ける場合は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 被相続人が事業に使っていた土地を、事業を引き継いだ親族が取得する
- 被相続人と生計を一にする親族が事業に使っていた土地を、当該親族が取得する
どちらの場合も、相続税の申告期限まで事業を継続し、宅地等を継続保有している事が条件です。
なお、2については、被相続人から土地・建物を無償で借り受けていることが必要です。
2019年の改正で、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された土地は、この特例の対象外になりましたが、一定規模以上の事業を行っていた宅地等については、対象になります。
一定規模以上の事業とは、新たに事業の用に供された資産(相続開始時の価額)において、以下の算式を満たす場合における事業を指します。
- (建物+償却資産)÷(宅地等)≧ 15%
つまり、土地だけではなく、土地の上に一定以上の設備がある場合は、3年以内に開始された事業でも、特例の対象になるという意味だと思います。
特定同族会社事業用宅地等
上記の特定事業用宅地は、個人事業として使用していた場合ですが、被相続人が経営する一定の法人が使用していた場合についても、特定事業用宅地と同様、400㎡までの面積に対し、80%の評価減が受けられます。
一定の法人とは、相続開始の直前において、被相続人及びその親族等がその法人の発行済株式の50%超を有している場合をいいます。
また、相続税の申告期限において、その土地を取得する人は、当該法人の役員である事が必要です。
なお、当該法人の事業が貸付業(不動産賃貸)である場合、若しくは当該法人が所有する土地の一部が貸付業に使用されている場合の当該土地は、貸付事業用宅地等に該当します。
貸付事業用宅地等
被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が、貸付業(不動産賃貸)として使っていた土地を、貸付事業用宅地等と呼び、200㎡までの面積に対し、50%の評価減が受けられます。
貸付事業用宅地等の適用を受ける場合は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 被相続人が貸付業に使っていた土地を、事業を引き継いだ親族が取得する
- 被相続人と生計を一にする親族が貸付業に使っていた土地を、当該親族が取得が取得する
どちらの場合も、相続税の申告期限まで貸付業を継続し、宅地等を継続保有している事が条件です。
なお、2については、被相続人から土地・建物を無償で借り受けていることが必要です。
2018年の改正で、相続開始前3年以内に貸付業の用に供された土地は、この特例の対象外になりました。
各特例の適用限度
各特例の適用限度をまとめると、以下のようになります。
特例の適用宅地等 | 限度面積の計算 | |
貸付業なし |
|
a≦330㎡ |
貸付業あり |
|
(a×200/330) + (b×200/400) + c ≦ 200㎡ |
事業用と居住用に関しては、合計で730㎡まで適用が可能な一方、貸付用事業宅地を併用する場合は、換算後の全体面積で200㎡までしか適用できないので、より厳しい要件になっています。
基本的な居住権と個人商店などの小規模事業を守る一方、賃貸業を営む大家さんに対する優遇措置は限定的との政策意図が見えます。
まとめ
以上、特例毎の内容ついて、簡単におさらいです。
利用区分 | 特例 | 限度面積 | 減額割合 |
居住用 | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
事業用 | 特定事業用宅地等 | 400㎡ | |
特定同族会社事業用宅地 | |||
貸付事業用宅地 | 200㎡ | 50% |
いかがだったでしょうか。
小規模宅地等の特例は、適用を受ける事ができれば、相続税を大幅に圧縮できる事ができる反面、適用には全体のルールをよく理解して臨む必要があります。
要件の細かい部分については、かなり頻繁に改正を受けているのが現状ですので、相続の発生時には、最新のルールをチェックする必要があります。
また、各特例の併用についても、特殊なルールが適用されますので、特に貸付用の不動産がある場合は、その適用対象について注意が必要です。