グループ法人税制とは
以前取り上げたグループ通算制度とよく似た名前の制度として、グループ法人税制があります。(以前の記事は、こちら↓)
グループ法人税制は、2010年の税制改正で創設された制度で、それ以前からあった連結納税制度の発展形と言えます。
制度の趣旨は、グループ法人内の会社をひとつの団体と見做し、経営の実態に応じた課税を行う事で、課税関係を律する事にあります。
グループ経営の効率化というより、グループ内取引を利用した租税回避をさせない点に重きを置いた制度です。
また、グループ通算制度が任意制なのに対し、このグループ法人税制は強制適用である点が異なります。
グループ通算制度は、面倒であれば適用を見送る事ができても、グループ法人税制は、該当する取引には必ずヒットしますので、うかうかしてられません。
今回は、グループ経営を考える上で欠かせない制度である、グループ法人税制について取り上げます。
対象法人
対象法人は、完全支配関係(100%資本関係)にある、全ての内国法人です。
資本金等の要件はありませんので、オーナー会社、中小企業においても、完全支配関係がある内国法人同士であれば、制度の適用を受けます。
完全支配関係は、100%保有の親子間のみならず、完全支配関係にある子法人を通じて間接的に100%保有されている場合や、「一の者」によって100%保有されている兄弟会社も含みます。
グループ通算制度では、グループの頂点となる「一の者」は法人に限られていますが、グループ法人税制は個人であってもグループの頂点になり得ます。(寄付金は、法人による完全支配関係に限られます)
更に、頂点が個人の場合は、当該個人と親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)や、特殊関係のある個人を含んで判定する点に注意が必要です。
なお、完全支配関係において、従業員持ち株会や役員・従業員のストックオプション行使による所有株式の合計が、発行済株式数の5%未満である場合には、これらの株式を除いて判定する事になっています。
国税庁HP:グループ法人税制適用対象法人等の比較
対象取引
対象となる取引は、グループ間における資産の譲渡、配当、寄付金などです。
また、親法人が会社法上の大法人であれば、子法人が中小法人に該当する場合でも、子法人に中小企業税制が適用されなくなります。
資産の譲渡
有価証券、不動産等の固定資産、金銭債権、繰延資産に係る取引は、グループ外へ譲渡されるまで、譲渡損益は繰延べの扱いとなります。
また、グループ内譲渡におけて損益が繰延べられた後、譲受法人がグループ外へ譲渡する際の譲渡損益は、グループ内譲渡における、当初の譲渡法人において計上します。
つまり、グループ内の譲渡損益は、当初は税務上認識されず、グループ外へ譲渡された時に、当初の譲渡法人において、譲渡損益が初めて認識されるという事になります。
会計上の扱いは、個々の取引において認識されるので、当初のグループ内譲渡の際には、会計上の譲渡損益を打ち消す税務調整が行われる事になります。
そして、グループ外へ譲渡される際に、税務調整が解消され、初めて税務上の譲渡損益が認識されます。
配当・現物分配
グループ法人内において、配当の授受が行われた場合、負債利子を考慮する事なく、その全額を損益不算入として処理する事が可能です。
この優遇措置を適用される為には、配当計算の期間中、継続して100%グループ関係が継続している必要があります。
また、グループ法人内の現物分配(みなし配当含む)は、現物分配法人の直前の帳簿価額によって行われたものとされます。
自己株式の譲渡
グループ法人内の株式を発行法人に対し譲渡(自己株式の譲渡)する場合、当該株式の譲渡損益の計上は行いません。
寄付金
グループ法人内の寄付金の授受は、支出法人において全額損金不算入とすると共に、受領法人においては全額益金不算入とされますので、税務上は各々調整を行い、損益を認識しません。
中小企業税制の不適用
親法人が会社法上の大法人(資本金5億円以上)の場合、100%子法人が中小法人(資本金1億円以下)であっても、以下の中小企業向け特例措置に係る制度は適用されません。
- 中小企業者等の法人税率の特例(軽減税率の適用)
- 特定同族会社の特別税率の不適用
- 貸倒引当金繰入額の損金算入
- 交際費等の損金不算入制度における定額控除
- 欠損金の繰戻しによる還付
国税庁HP:中小企業向け特例措置の不適用について
最後に
これまで見てきたように、グループ法人税制は、100%グループ法人に対して、様々な制約を課している事がわかります。
この税制が創設された背景には、租税回避を意図した子会社の設立を規制しようという、政策側の意図があったのだと思います。
このグループ法人税制は、納税者側に明確なメリットは少ないように思える反面、管理が大変になるといったデメリットはあると思います。
例えば、グループ内の資産譲渡では、会計上の処理とは別に、税務調整が入りますので、管理上の手間が増す点は、明確なデメリットといえます。
管理上の手間が増すという点は、グループ通算制度も同じですが、こちらは損益通算というメリットとの天秤で、導入を任意で決められるという違いがあります。
敢えてメリットといえば、グループ法人税制を前提とした、攻めの経営と言った所でしょうか。
つまり、はじめから租税回避を目的とした子会社設立ではなく、将来のM&Aを見据え、効率的な経営リソースの分配を図る為のグループ形成を目的とする、といったイメージです。
M&Aを積極的に行う大企業であれば、こうした趣旨を踏まえて、前向きな税務戦略もありかと思います。
ただ、多くの中小企業の場合、グループ法人税制が経営の足枷とならないよう、用心するのが得策だと思います。